嘴平伊之助の場合




「お前、んな格好で何してんだ?」


 そう問いかけてきた彼に、私は苦笑した。
 それもその筈、今の私は太腿を浴衣から晒している状態だからである。彼が不思議そうな顔をするのは無理もない。
 いつもは周りから身なりを少しでも崩すと炭治郎やら善逸から怒られていたのを彼は見ているので、余計に疑問に思ったのだろう。


「これね、少し任務でしくじっちゃって」
「情けねぇな!」
「耳が痛い……まぁそれで今は早く治すために日を浴びてるところ、見苦しいのは勘弁してね?」


 包帯を出来れば良いんだけど、塗った薬を少し乾かさなくちゃいけなくて。そう言い笑っていれば、伊之助は何故か静かになってしまった。
 伊之助?と彼の名を呼んで顔を見ようとすれば、おもむろに此方にズンズンと近付いて来た。そして何故かスポンッと猪頭を取り外して、私の足をガシリと掴む。そう、掴んできたのだ。


「は、え……?」
「この格好してるテメェを見てると何かムカムカしてきやがる!」
「ちょっ、……ひっ!?ど、何処に顔近付けてんの!?」
「うるせぇ、ちょっと黙って大人しくしてろ!!」


 吠えられたかと思えば、止める間も無くサラリと彼の髪が私の内側の太腿に当たる。その感覚に、私は慌てて大事な場所が見えない様に足の間の浴衣を抑えた。そして次の瞬間ぢゅうっ、と音がする。それに伴いビクリと大袈裟に揺れる私の体。当然痛みもあったけれど、それ以上に彼にこんな行為をされる理由が全くと言って良い程に思い当たらなかったので、至極困惑していた。
 なに、何で?と放心状態になっていれば、顔を上げた伊之助が自身のペロリと唇を舐める。その顔は達成感で満ちた様な、満足している顔だった。


「本当に何してんの……!?」
「すげぇやりてぇと思った事をした、そしたらムカムカが治まった」
「さっきのがやりたい事……?というかムカムカって何……」


 未だ放心状態が抜けきっていない私がそれでも何とか理由を聞いてみれば、彼は落ち着いた雰囲気でそう答えた。
 ムカムカってどんな感じの?と聞けば、胸の辺りに手を置きながら、ここら辺がと呟く。だがすぐにもう何ともねぇ、と彼は言う。


「けど、もうその格好はすんな!親分命令だ!!」
「えぇ……?これは薬が乾くのを待ってたんだってば」
「……まぁお前はその格好、したくてももう出来ねぇだろ?」


 ニィッと目を細めて笑いながら私の足を見た伊之助はすぐにこちらを見ると、子供の様にイーッとしてから、プイッと体ごと向きを変えてさっさと何処かへ行ってしまった。
 一度彼の視線が向けられた太腿を見れば、先程彼が言った意味が嫌な程に良く分かってしまう。先程の彼の行為が焼き付いて、火照り出した頬を感じながら薬が乾いたかも確認せずに急いで衣服を正したのだった。




結果
猪頭少年は、無防備に晒されていた足を見て無意識な独占欲が発生。自分以外に見せたくなかったので、本能的にその場所に印を残した。

太腿は独占欲、甘えたい。



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