我妻善逸の場合




「……ね、ソレ、どうしたの?」
「え?」


 ニコリと穏やかに笑う彼は、一度目を合わせてから少し下に目線をずらした。
 私はその視線を追うように自身を見る。彼が見ていたのは顔では無かったし、かといって胸の辺りでも無かった。そうすると、首の辺りらへんだろうか?

 何だろうと思い、試しに首元に手を持っていけば、手が触れそうな直前にズイッと手鏡を眼前に持ってこられた。まるで、触るなと言いたげだ。
 けれどそれをやった彼は、いつもの賑やかな姿からは想像出来ない位に静かで穏やかだ。
だが、彼の雰囲気に背筋が凍りそうのは何故なのだろう。


「……えっと、善逸が言ってるのは、この赤いヤツの事で良いのかな」
「うん」


 どうしよう。コレに何か痛みやらの違和感がある訳でも無いし、何の思い当たりも無い。
 えぇ……?こんなものが付く出来事なんて何かあっただろうか?

 うぅんと考え首を捻っていれば、スルりと腕が伸びてきた。その手は輪郭をなぞる様に、頬から首筋へとゆっくり下りてゆく。


「えっ、と……?」
「心当たり無いって顔してる……音を聞く限り、きっとそれは本当なんだろうね」
「う、うん」
「……でも、どうであれ付けられた事実は変わらない」


 だから、今すぐに名前からソレを消し去ってあげる。上書きして、塗り潰して、俺以外が君に触れた事実を無くす。じゃないと耐えられない。君に触れて良いのは、名前の中に痕跡を残して良いのは俺だけの特権なんだから。

 スリ、と赤い場所をなぞられたかと思えば、吸い寄せられる様に彼はそこへ口付けた。ヂュッ、と荒々しく強く吸われたソコにはジンジンとした痛みと熱が残る。
 はぁっ……と色っぽい吐息を漏らした彼は、顔を離して此方を見た。その目は逃がさないと言わんばかりに、ギラギラしている。
 彼は思っていた以上に、冷静ではなかったらしい。


「ぜ、んいつ……」
「何を言おうが止めないから……ん、」
「ひ、ぁ……!」
「その姿を他の奴が見たかと思うと、気が狂いそう……っ!」


 彼は苦しそうに顔を歪めながらそう言うと、私の首元に今度は歯を立てた。ガブリ、と結構しっかりめに噛まれた為、ジリジリと痛む。噛まれた場所に、逃がし様の無い熱が溜まる。

 ……でもこれ、寝ている貴方が寝ていた私に自分で付けたんじゃないか。といっても、私も今噛まれた瞬間に思い出したし、その時の私の意識はその時少し浮上してすぐに落ちた。
 なので二人仲良く夢の中なら、彼が知らないのも、私が覚えていなかったのにも納得がいく。しかも、この感じだと善逸は全く覚えていない様だ。

 正解を知った善逸はどうするのだろうか、正気に戻って喚くだろうか。それは少し、勿体無く感じる。……それに、私だって有り得もしない浮気を疑われたんだ。これくらい黙っていてもバチは当たらない筈だ。
 だからもう少し、善逸のその嫉妬を見ていたい。見せてほしい。


 良い子では無い私は正解に蓋をすると、見ないフリをして逆に近くにあった彼の頭を引き寄せた。すると分かりやすく息を呑んだ彼が、そんな事をしたって止めないからと低く呟く。
 それに私はわざと応えず全身の力を抜いて、これから行われるであろう彼特権の行為を受け入れた。




結果
キスマークの原因は雷少年自身。けれど彼自身はその事を全く覚えておらず、自分で自分に牽制する。

首は嫉妬、不信、強い執着。


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