竈門炭治郎の場合




「……いや、何でもない」


 彼は何かを言いかけて、フイ、と顔を背けた。
 私はそれを不思議に思い、首を傾げる。いつも彼は言いたい事は言ってしまうからだ。
 そのままジッと彼を見ていれば、チラチラと時折こちらを盗み見られた。


「どうしたの?何か言いたい事があるなら言ってよ」
「……俺は、名前を信じてるし信じたい、けれど実際に見てしまったから聞く」
「?うん」
「その首のモノは、どうしたんだ」


 トントン、と自分の首筋を人差し指で示す様に軽くノックした彼は苦しそうに顔を歪めていた。
 それに釣られて私は自身の首を摩る、けれどそこには特に違和感は無い。彼が何の事を言っているのか確かめるべく、鏡を取り出してソコを見た。すると、そこには赤い印がポツンと一つ付いていた。
 ……これは、所謂キスマークだろうか。そういえば昨日、女友達との呑みで酔って巫山戯て色々やらかしたという記憶が朧気にある。それ以外は特に昨日人との過度な接触はしていないから十中八九、友人だろう。
 うっわ、これいつ消えるかな……と内心友人を恨みながら印を触っていれば、その手をパシリと取られた。


「っ俺の前で!!……俺以外に付けられたモノを、そんなに撫でないでくれないか……!」
「ご、めん……」
「……いや……俺こそ急に声を荒らげてしまって、すまない」


 弱々しい声で、見るからに悲しそうな彼に私は息が詰まった。別にやましい事がある訳じゃないのに、早く否定しなくてはいけないのに。
 それでも今、彼から向けられた感情を嬉しいと確かに思ってしまった自分が居たのだ。


「あ、の……あのね炭治郎、コレ付けたの多分、女友達……」
「……えっ」
「ほら昨日、友達と呑むって言ったでしょう?その時にその、羽目を外しすぎたみたいで……」
「そう、いえば……」
「だから、その」


 余計な心配かけてごめん!と私が頭を下げれば、次の瞬間にはぎゅうっと抱き締められた私の体。勿論それをしたのは一人しか居なくて、肩口にあった赫灼の髪を私は優しく撫でた。


「……穴があったら入りたい、なんなら掘って埋まりたい」
「そこまで!?」
「っだって、俺の勝手な勘違いで綺麗じゃない感情を君に向けてしまった……!」
「……私は、少し嬉しかったけどなぁ」
「え、」
「だって、それだけ炭治郎に愛されているんだなって実感出来たから」


 だから、嬉しい。私が心からの気持ちを言えば、より一層抱き締められてしまった。
 まるで大型犬にじゃれつかれてるみたいだなぁと思っていれば、肩口にあった頭がモゾモゾと動き出す。
 擽ったいよと笑っていれば、唐突に首元に押し付けられた柔らかいもの。
 え?と思ったのも束の間。チリッとした刺すような痛みと共に、ちゅっと可愛らしいリップ音が聞こえてくるではないか。


「まっ、炭治郎さん……!?」
「理由は分かった、けれど許した訳じゃない」
「えっ、」
「だから、きちんと上書きをしないと」


 そうだろう?と、同意を求める様にチラリと此方を見てきた彼の瞳はユラユラと先程までとは違う意味で揺らめいていた。
 その熱を受け入れる様に、私はそのまま彼の背中に手を回した。




結果
キスマークの原因は女友達とのお巫山戯。けれど長男は、例え女友達とのじゃれ合いでも簡単に付けさせた事を許さない。

首は嫉妬、不信、強い執着。


| menu |
「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -