マリーゴールドの笑顔



 あの後二人して落ち着いてから、モノクマに言われた事を思い出して体育館に急ぐ。その途中、体育館に向かっていた赤松さんを見つけて、当初の目的である合流を達成出来た。
 こちらに来てからはまだ私は赤松さんとは初対面なので、体育館に向かいながらお互いに自己紹介をする。

 少し会話して思ったが、やっぱり赤松さんは赤松さんだ。明るく前向きで、とても素直な良い子。
 その笑顔に前回も沢山の笑顔と勇気を貰った、皆が彼女に惹かれる理由も分かる。
 今回、もしまたモノクマがコロシアイを引き起こすと言うならば私は赤松さんを、彼を、皆を守りたい。今度こそ皆で生きて外に出たい。

 ……まぁ、私の好きな人はそう簡単に守らせてくれるようなか弱いお姫様では無いのだけれど。
 かといって、私も大人しく守られる様なか弱い女の子でも無いけれど。寧ろ王子様まで行かなくても騎士、いや親衛隊員とか咄嗟に壁になれる位のレベルにはなりたいかなぁ。
 でも私の才能的に仕えるならば庭師が最適な気がする、後は怪しまれない為のスパイ的な……?


 そんな事を悶々と考えていればいつの間にか体育館に着いていた様で、赤松さんが扉をガラリと開ける音で漸く気が付いた。前を向けば私達以外の全員が既に揃っていて、私はグルリと辺りを見渡す。
 やはり、体育館も初期のまま。何も変わりが無く、綺麗なまま。

 キョロキョロ見渡していれば、ふと一瞬だけ総統と目が合った。が、私はすぐ様他に目を移した。
 目なんか最初から合ってませんという感じで。総統には悪いが、こちらがどんな顔をしたらいいか分からない。取り敢えず体育館にいる間は、最原君と赤松さんの影で隠れていよう。幸い、二人の側に居ると彼の視覚に入らないラインがある。そしてなんと私の動きに最原君は気付いたのか、さり気なく私に合わせて立ってくれた。
 何だこの気遣いのできるイケメンは。何なのもう、絶対に今回君が幸せになれるように全力を尽くしてやるからな!!??

 その後はコロシアイの時と同じ流れ。モノクマーズがエグイサルで出て来て、それをモノクマが止める。ただ違うのはその後だった。
 簡潔に言えば、何を思ったかモノクマがコロシアイは飽きたから恋愛バライティをしようと抜かしたのだ。
 それを聞いた瞬間、記憶持ちの私と最原君は呆けた。文字通り口を開けてポカーンと。
 周りの人達も記憶は無くとも、多少はやはり動揺しザワついた。しかしすぐに取り敢えずはこの状況を一先ず受け入れた、と言うと語弊があるかもしれないが、徐々に適応していった。

 そんな状況を他所に、私と最原君は顔を見合わせお互いに動揺する。色々と覚悟していたのに、何と言うか拍子抜け過ぎた。いやまだ油断は出来ないのだが。
 そんな私達の隣で赤松さんが、取り敢えず皆と仲良くなればいいのかな?と言っていた、天使か。


 モノクマはその恋愛バライティ……通称紅鮭団と言うらしいが、その説明を終えると何事も無かったかのように去っていった。モノクマーズも同様に。
 皆はそれを見届けると、ざわめきながらも個々に体育館を後にして行った。

 え、えー……?皆、なんか適応能力が高くない……?それとも、私達と違って皆が記憶持ちでは無いから余計にそう感じるだけだろうか。
 横に居る最原君を見れば、彼はまだ状況が呑み込めてないのか思考がグルグルしている様だった。私はしっかりして、という意味合いを込めて控えめに彼の腕を掴み揺らす。すると最原君はそれに気付いて深い思考から戻って来てくれた。


「……っは!ご、ごめん、ありがとう苗字さん…」
「ううん大丈夫、私も同じだから……でも、それ以上に最原君は色々考えてたんだよね?」
「職業病、なのかは分からないけど……たまに周りが見えなくなる時があって……何とかしたいとは思ってるんだけど」
「でも……最原君のお陰で真実に辿り着いた事が沢山あるから、私は凄い感謝してる」
「苗字さん……ありがとう」
「んー……よし!取り敢えず、色々回ったり他の人とも話して情報収集しよう!」
「そう…だね、まだ色々と分からないし」


 お互いに頷き合い、次の行動を決めた。
 神妙な顔をして話していた私達の事を気遣ってくれていたのか、一歩後ろに居た赤松さんにも一緒に探索をしないかと声をかける。すると彼女は、その場に花が咲いたような可愛らしい笑顔で了承してくれた。可愛い。
 そう、だから気が付かなかったのだ。そんな可愛らしい笑顔に魅了されているすぐ後ろで魔の手が迫ってる事に。

 赤松さんの笑顔に癒されてから、さあ行こう!と体育館を出ようとした瞬間、私は後ろに引っ張られた。
 私はぐえっと色気の無い声を出して、何これデジャヴと頭の片隅で思ったのも束の間、後ろに重心が傾く。倒れるかと思えば、案外すぐ近くで受け止められて、尚且つ後ろから抱き締めるように腰辺りで前に来た腕がガッチリと回っていた。
 犯人を確かめようと腕を見れば、拘束具の様な白い服。こんな特徴的すぎる服を着ているのは、この中じゃ一人しか居ない。

 私は頭の中で、思い当たる人物の名を呼んだ。


「そ、総統……?」
「もう!苗字ちゃんってば、さっき俺と目が合ったのに無視したでしょ!凄く傷付いたんだからね!?嘘だけど!!」
「め、目が合ったかは知らないけど……そうなんだ……」
「ちょっと、そんな見え見えの嘘付かないでよね、俺は他人の嘘が反吐が出て鳥肌が立つ程に大っ嫌いなんだから」
「え、えぇー……」


 いきなりの事でどうすれば良いのか分からず、気圧され気味の私は助けを求める様に最原君を見た。
 するとその視線に気付いた最原君が、少し面倒そうな顔をしながらも総統に話しかける。


「ね、ねぇ、苗字さんが困ってるからその辺で……と言うか、君は何か用事があって彼女を呼び止めたんじゃないの?」
「ん?あぁ、俺が苗字ちゃんを呼び止めた理由?あー、うん、ちゃんとあるよ、うん」
「……それ、嘘だよね?」
「えっ」
「ほら、用がないなら離してあげて?彼女、どうすれば良いから分からずに固まっちゃってるから」


 離してくれた、と言うより総統が呆けて力が緩んだ隙に腕の拘束から抜け出したが正しい。
 最原君が大丈夫?と気にかけてくれたので
私は色んな意味も含めて頷いた。
 それにしてもいきなりの呆けてどうしたんだろうかと思い総統を見れば、次第に目をキラキラと輝かせて最原君を見る。
 その視線を見た途端、理由が分かった。

 彼は嬉しかったんだ、嘘を見破られた事が。
 私達は前回の記憶があるから皆との接し方も分かるし、無意識下にやっている場合もある。今回、先程の最原君がそうしてみせた様に。
 でも彼らは、前回の記憶を持ち合わせていない。彼は自分の事を考えて結局は自分に付き合ってくれそうな、彼風に言えばつまらなくない相手をほぼ初対面の相手に見つけたのだ。
 それは相手に受け入れられた様な、少し嬉しくもある様な感覚。分からなくもない気がする。


 今回は最原君には押し付けるようで悪いけれど、総統のお相手をしてもらった方がいいかもしれない。
 先程は最原君の助け船があったからこうやって逃れられたものの、次も成功するとは限らない。なんてったって総統ですからね。

 私はそう思い、赤松さんに小声で長引きそうだし先に2人で探索に行かないかと提案する。
 すると赤松さんは最初は不思議そうにしていたけど頷いてくれて、二人が会話に夢中になっている隙にそっと体育館を出た。後で最原君には謝っておこう。


「っはー……ありがとう赤松さん、了承してくれて」
「ううん、それは全然良いんだけど、王馬君と何かあったの?」
「いや、特に無いよ……ただ私が彼と似ている人の事を思い出して勝手に気まずくなってるだけなんだ、だから彼と何かあった訳じゃないよ」


 私がそう言えば、彼女は急に慌て出す。


「あっ……!もしかしてこれ、気軽に聞いちゃいけない話だった……?もしそうだったのなら私……!」
「えっ、あっ!大丈夫!!本当に、そういうのじゃないから……」
「それなら、良いんだけど……でも多分苗字さんには辛い事なんだろうなぁ……って」
「っ、赤松さんって意外に鋭いよね……」
「ふふっ、鋭いかは分からないけど苗字さんの表情を見れば多分誰でも分かるんじゃないかなぁ?」


 だってその人の事を喋ってる時の苗字さんの顔、ちょっと哀しそうだったけど、凄く愛おしそうだったから。

 微笑みながらそう言う赤松さんに、焦った私は分かりやすく驚きの声を上げてしまう。


「は、えっ!?ちょっ、まっ、そんな顔して……!!??」
「あははっ!やっぱり気付いてなかったんだね、その人の事が好きなんだろうなぁっていうのが凄く伝わってきたよ!」


 う、うわぁ……恥ずかしい。穴があったら埋まりたい、穴を赤道まで掘って落ちていきたい位には恥ずかしい。
 つまり駄々漏れだと、私の王馬に対する気持ちは分かりやすく筒抜けだと。

 まずい、これは更に総統に近付かないようにしなければ。赤松さんに簡単にバレたという事は、いつも人間観察してる様な総統様にもしこんな話したら自身か気付くかは知らないが、好きな人が居る事は即バレじゃないか。そんなの、バレた瞬間から弄られるに決まっている。
 元々この恋愛バライティとやらで総統に近づいたり、ましてや一緒に卒業などという気は一切無かったが、これは更に彼から遠のいた方が良さそうだ。
 卒業に関しては他の人や、最終手段で誰か女子に協力を仰ごうと思う。皆優しいし、中には男子との恋愛は特に興味無いという人が数人居るため多分何とかなるだろう。
 それと保険として、最原君にも協力を仰いでおこうと思う。勿論、その代わり赤松さんとの事は任しておいてほしい。応援と援護頑張るからね!

 取り敢えず私の当面の目標は総統に接近せず、最原君と赤松さんの仲を深くする事だな!よし決まり!!


「あーっ!2人ともやっっっと見つけたー!!」
「っ!?」
「ちょっ、待って!早いってば……!王馬君ったら……!!」
「もー、最原ちゃんは体力無いなぁ……それでよく探偵業出来るね?」
「僕の場合は猫探しとか、比較的平和だからこれ位で充分なんだよ……!」


 ……あれー?可笑しいな、さっき決意したばかりだというのにもう追い付かれたというか、見つかってないか?
 というか最原君凄い疲れてるし、きっと総統に振り回されてここまでずっと走ってたんだろうなぁ。

 しかしこれはまずい、凄くまずい。こう追いかけてこられてしまうと、逆に変に逃げる方が可笑しく見えてしまう。しかも最原君は凄く申し訳なさそうだし……!ごめん、謝るのは私の方なんだよ!!
 ……ちょっと一旦落ち着こう、うん。内心取り乱しまくっても何も解決はしないので意味が無い。取り敢えず、少しずつ彼に気付かれないよう距離を置こう。そっと一歩、一歩、後ろに……。
 そう思いながらジリジリと下がろうとした途端、どこ行くのという台詞と共に手首をパシリと掴まれた。


「もー、何でどんどん後ろに遠ざかっていくのさ!最原ちゃんが泣いちゃうよ!?」
「何で僕なんだ、別に泣かないよ!……それに、例え僕だとしても苗字さんには事情があるから責めたりしないよ」
「素でそれとか最原君まじイケメン」
「えっ、あ、ありがとう……?」


 真顔でそう言った私に最原君は困惑しながらも少しの照れを滲ませた。
 しかし、一筋縄ではいかないのが総統である。


「えー?だって別にこの感じだと男性恐怖症でも無さそうだし、何で最原ちゃんは良くて俺は駄目なのさ!」
「王馬君……」


 そう言うと総統はプクーっと頬を膨らまし、ブーブー!と言い始めた。駄々っ子かよ……くそ、可愛いな。

 ……まぁ、確かに総統の言う通りなのだけれど。だが今の私達の状況を、上手く表現出来る方法や言葉が見つからない。
 まさか貴方だけど貴方じゃない、貴方が好きなんです!なんて、彼からしたら意味不明の事を言える筈もない。
 どうしようかと悩んでいれば横にいた赤松さんが、私達はまだ出会ったばかりなんだから話せない事くらいあるよ、と助け舟を出してくれた。


「二人は最初から知り合いみたいだから仕方ないよ、ここで過ごしていくうちに理由を話してくれるかもしれないし……ね?」
「……そうなの?苗字ちゃん」
「えっと……約束は、出来ないけど」
「……まぁいっか!ていうか赤松ちゃんってば俺の事、子供扱いして無かった?完全に喋り方がそれだったんだけど」
「えっ、いやぁ…そんな事は……?」


 彼が納得したのかは分からないが、手首を掴んでいた手がスルリと解けた。そして彼は会話の標的を赤松さんに定めたのか、楽しそうにマシンガントークを繰り広げ始める。
 それと入れ替わりで、最原君に小声で良いの?と聞かれた。この良いの?にも、色々な意味が含まれているのを私は知ってる。だからそれを踏まえて私は最原君の目をしっかりと見ると、深くゆっくりと頷いた。

 この後。私達は当初の目的である探索を忘れ、暫く総統に振り回され付き合わされたのだった。








マリーゴールドの花言葉
友情、生きる、可憐な愛情




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