私はパンが好き、ご飯も普通に好きだけどどちらかと言えばパンを選ぶ。理由は色々。美味しいから、匂いが好き、食事にもおやつにもなるから便利、他にもエトセトラ。
善逸そして最近、その好きな理由の中に一つ追加されたものがある。


「あっ、また来てくれたのか!本当に君はパンが好きなんだなぁ」
「それもあるけど、ここのパン本当に美味しいから」
「そうか!ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいよ」


 竈門ベーカリー、それが私がここ最近よく行くお店の名前。
 気まぐれで、ただ焼きたての匂いに釣られて入ってみた店内。店内は清潔的でパンの種類も選り取りみどりで、物によっては試食出来るものもあった。

 この時の私は内心、もう例えるなら踊り狂い出しそうな程に歓喜していた。ここ最近新しいパン屋の発掘が出来ていなかったのもあるが、ここは自分が好きな雰囲気のパン屋だったのだ。
 最初は本当にここのパン目当てで通っていた、予想通りここのパンはフカフカで美味しくて優しい味がした。けれど段々常連の様になっていくにつれて店員さんとも顔見知りの様な関係になっていったのだ。
 来て暫くは美人の女の子の店員さんだった、何故かフランスパンを加えていたけれど。でも接していくうちにとても良い子だということが分かったし、接客もとても丁寧だ。パッと見、私と同い年か一個下くらいの子。後に聞けばその子は一つ下の中学生という事を知った。

 そんな同じ位の女の子が店員さんをやっているという親しみもあり、とても通いやすかったのだ。


 だが、ある日彼は唐突にそこに居た。
 その日もいつも通りパンを買いに寄った。すると最初は誰もカウンターに立っておらず、その時はただ珍しいなとしか思わなかった。まぁ他にも色々と仕事があるのだろうし、会計時には呼び出しベルを鳴らせば良いかとそのままパン選びに没頭した。

 嗚呼、食パンは買うとしてカレーパンにメロンパン、あんぱんにクリームパン、明太フランスや数種のチーズのフォンデュも良いなぁといつも通り優柔不断をかましていれば、ふと後ろから控え目な笑い声が聞こえた。
 あれいつの間に、といつも通り女の子を思い浮かべながらカウンターの方へ振り返ればそこには同い歳位の男の子が立っていた。
 バチリと目が合うと彼はハッとしてから笑っちゃってすみません!と綺麗な直角のお辞儀を披露してみせた。


「えっあっ、だい、大丈夫、です!」
「そうですか?それなら良かった、あっ誤解しないで下さいね!笑ってしまったのは悪い意味じゃないですから」
「は、はい、そうなんですか」
「凄く楽しそうにパンを選ぶなぁって思って、それに迷っている姿が何だか可愛らしかったから」
「えっ」


 自分では分からないかもしれませんが、選んでいる時とても目をキラキラさせていたんですよ。どのパンを見てもそれが全てに向けられていて、作り手としては凄く嬉しい気持ちになります!とキラキラの笑顔で目の前の男の子は言った。
 眩しい、男の子の笑顔はこんなにも太陽の光の様に眩しかっただろうか。正直直視出来ない、直視したら目が潰れそう。というかさっきサラッと可愛いとか言われた気がする、幻聴?私、最近パンの事考え過ぎ??

 そんな事を思っていれば、目の前彼があっ!と声を上げた。


「そうだ、先程のお詫びに新作を試食していきませんか?今回のも自信作なんですよ!」
「それは私にとっては嬉しいご提案ですけど、良いんですか?」
「はい!こちらとしてもお客様の意見があると助かりますから!」
「それじゃあ、お願いします」
「分かりました!少し待っていて下さいねー!」


 話が終わると男の子はスタコラサッサと素早く奥へ下がって行った。
 暫くして片手に小さな籠を持って彼が奥から出て来た、その籠からは出来たてのいい匂いが香ってくる。あぁ食欲がそそられる匂い、お腹が減ってきてしまった。……流石にお腹の音は鳴らないでくれと願う。私の体、頑張れ。

 どうぞと差し出された籠に入っていたのはベルリーナー、確かドイツの揚げパンで中身はジャムのはずだ。頂きますとホカホカと湯気の上がるパンを手に取り、あむりと齧り付いた。
 ベルリーナーは出来たてだから、より一層生地がフワフワしていて、中のジャムも温かくトロリとしている。味も甘酸っぱくて丁度良く美味しい。このジャムはラズベリーだろうか?


「美味しかったです、商品化したら買いますね!」
「本当ですか!?気に入っていただけで良かった!……でもこれ実はまだ名前が決まってないんです、何通りかに意見がバラけちゃって」
「そうなんですか?」
「はい、お恥ずかしながら」


 男の子は気恥しそうに苦笑しながら答えた。聞けば何でも表記をラズベリーにするか木苺にするか、はたまたフランボワーズにするかといった何とも可愛いものだった。
 私は微笑ましさで緩みそうになる顔面を何とか抑えながら、自身の意見を告げてみた。


「そう、ですね……個人的にはラズベリーを普段よく聞く気がします。フランボワーズはお菓子に多いイメージですね、木苺はテーマが森とかなら良いかもしれません」
「成程……ちなみに最後の森って、例えば何でしょうか?」
「童話の赤ずきんとか、白雪姫に出てくる小人とかそういった感じでしょうか」
「あぁ!確かにそれなら想像も出来て共感出来るから興味が出ますね!」


 その言葉に私は頷けば、男の子はありがとう!と私の手を取りブンブンと上下に勢いよく振って握手をした。
 突然の事に私は何も言えずされるがままにされていれば、男の子が我に返りスミマセンッとまたもや綺麗な直角のお辞儀を見せてくれた。何度見ても綺麗な90度、ここまで綺麗に出来る人居るんだなぁ。大丈夫だから頭を上げてと言えば彼はありがとう、とキラキラの眩しい笑顔を見せてくれた。

 その後も私がパンを選んでいる間に世間話が続いた、好きな物や嫌いなもの、このパン屋の事だったり本当に色々。
 そしてその中で発覚した彼の年齢と学校。まさかの後輩で、しかも同校だった。同い歳位だろうなとは思っていたが、まさか同じ学校だとは思わなかった。まぁ確かに同学年でも把握出来てない人が沢山居るんだから、他学年の人を知らなくても当たり前かぁ。

 そんな事を思っていれば唐突に彼から自己紹介をされた。


「俺は竈門炭治郎、この竈門ベーカリーの長男なんだ!」
「はっ、はい!竈門君ですね……!」
「もし学園で見かけたら、遠慮無く声を掛けてくれると俺は嬉しいです!」
「わ、かりました、私の方こそもし会ったらよろしくお願いします」


 あぁ!と明るい声で返事をする男の子、竈門炭治郎君。この竈門ベーカリーの長男で、私と同じキメツ学園に所属している高校一年生。そして、私の気になっている人。

 そんな会話をしたのが約数ヶ月前、正直未だ特に進展などはない。学校で会うかと思われたが全く見かけず、変わらず私が店に行きいつも通りパンを買い、その際少し世間話をする程度のただの沢山居る中の常連の一人。
 まぁ常連になって覚えてもらえているのは素直に嬉しいし、あれ以降時々新作の試食をさせて貰えるのも嬉しい。

 そしてここまでの付き合いで分かったが、竈門君はとてもコミュニケーション能力がとても高い。何なら彼と話していて会話に困る事はほぼ無い。私も何か彼に聞いたり、会話を先導出来たらと何度も思ったがその度に声に出ない。こんな事ならもっと前に出ておくんだった……!と昔を後悔したが時は無情にも戻らない。
 そんな私の内情を知ってか知らずか、タイミング良くまた竈門君が笑顔で喋りかけてくれるのだ。毎度の事ながら不思議だが、パズルのピースがハマる様に竈門君は人の感情を汲み取るのが上手い。

 そして休日である今日、珍しく私は竈門ベーカリーに行かなかった。というより行けなかった、情けないながらにも風邪を引いたのである。休みの日は基本的に次の日の昼食用にパンを買っているのだが、今回は無理だった。
 流石に食品を扱っている所に風邪をひいた状態で行こうとは思わないし、彼や彼のご家族にも移したくはない。

 私は行けない事への哀しさがどんどん募ってきたので布団を頭まで被り、これ以上考えない様にこれから来るであろう睡魔を求めて瞼を閉じた。


「……あれ?名前、今日はパンじゃないんだね」
「あ、栗花落さん、はい……昨日風邪を引いて買いに行けなかったので今日はお弁当なんです」
「いつもパンだったから少し見慣れないかも」
「ですね、ここ最近はそうだったので私もです」


 二人して顔を見合わせて笑う。
 栗花落カナヲさん、同じクラスでそれなりに仲が良いと思っている女子生徒。

 最初は寡黙で皆と一歩距離を置いたクールな美人さんだったが、親しくなっていくうちに可愛らしい面が多々見つかった。特に彼女が本当の姉の様に慕っている人達の事になると、その可愛さが倍増する。何ならそこにその内の一人である胡蝶先輩が合流するとその場が花園と化す。あれは初めて見た時は本当に驚いた、何故かタイミング良く風が吹いた、あれは今でも不思議です。


 ちなみに今は気分転換で栗花落さんと外のベンチで食べているのだが、いつもは教室のせいか見える風景が違いとても新鮮な感じがする。別に他の時間に通りがかったり、見たりするのに。何でなのだろう。

 栗花落さんとゆったり世間話をしながらのんびりとご飯を食べる、私はこの時間がリラックス出来て好きだ。彼女と居ると無言が辛くないというか、自然に居られるというか。これを他の友人に言えば、あんな美人が隣に居て平静保って居られるお前が凄いと言われてしまった。
 別に、未だに栗花落さんの美人加減には慣れた訳じゃない。何ならふとした瞬間にドキドキする事なんて日常茶飯事である。けれどそれ以上に、栗花落さんの可愛い所を見たいのだ。目を逸らして見逃す位なら私はガン見する、勿体無い。


「それにしても今日、人が思ったより多いね」
「そうですね、天気が良いからでしょうか?」
「そうかも……あ、」
「どうかしましたか?栗花落さん」
「あ、えっと、知り合いを見つけたから」
「お知り合いですか?」


 ほらあれ、と栗花落さんがスっと少し遠くの方を指を指す。その手を追い示された先を見れば男子三人組が仲良く喋りながら此方の方へ歩いているところだった。

 一人は金髪の、確か朝よく見かける人で時々冨岡先生にシバかれて叫んでいる風紀委員の人だった気がする。
 もう一人はいつも半裸で有名で尚且つ顔が女子顔負けの美少女顔って言われてる確か嘴平君、って名前だった筈。
 そして最後の一人、その人は私がよく知っている人物だった。この数ヶ月、何度この学校で目線を忙しなく動かした事か。私の行きつけのお店の店員さんで息子さん、私の後輩にあたる男の子。

 私が、好きになってしまった竈門炭治郎君。その彼が、そこに居た。


「あー!カナヲちゃんだ!今日はここでご飯食べてるの?」
「うん、気分転換」
「お前よくそんなちっせー弁当で足りんな、後で腹減らねーのかよ」
「大丈夫、それに女子はこれくらいが普通サイズ」
「カナヲの弁当はいつ見てもバランスが整っているなぁ、凄いよ」
「これは姉さん達が作ってくれてるの、だから凄いのは姉さん達」


 うわ、うわー!栗花落さん凄い、本当に仲が良いんだろう。クラスでもこんなにもスラスラと喋る栗花落さんは見たことがない、私だって最近漸くそれなりになったと思っていたのに!……何か少し悔しい、それに私はまだ勇気が出なくて彼女の事を名前呼び出来てないのに!うぅ、良いなぁ……!

 そんな事を思いながら私は栗花落さんの横で顔を上げられないでいた。
 ずっと、ずっとこの学校で会いたい、会ってみたいと思っていた人物。それがまさかこんないきなり目の前に現れるなんて思ってもみなかった、急過ぎて今の私の身なりが大丈夫かも全く分からない。化粧は校則で無理でもせめてものリップとか、髪がボサボサじゃないかとかチェックしたかった。何で、こんなにいきなりなの。


「……どうか、した?もしかして驚いた、とか」
「う、うん……」
「確かにいきなり知らない男子が来たら私も驚くかも、ごめんね」
「ううん、大丈夫…!栗花落さんのせいじゃないから……っ!」
「……あれ?君、もしかして常連さんの、」


 栗花落さんが申し訳なさそうにするので、私は栗花落さんは何も悪くない!私の肝が小さすぎるだけなの!という気持ちを込めて栗花落さんの方を見て全力で首を横に振った。

 そうすれば自然と顔は上がる訳で、目の前に居る三人組にも私の顔が見える訳で。彼の上げた声に私は情けないながらビクリと体を震わせてしまった、我ながら私の本能ビビり過ぎないか!?
 その反応を見た彼は怖がらせたと勘違いしたようで、すまない!と謝られてしまった。違う、違うんです。弁明しなきゃ、こんな勘違いされた状態なんてやだ、嫌だ。


「っちが!違くて!いきなりだったから驚いただけなので、竈門君が謝る必要は無くて、ですね……」
「それなら、良いんだが……それにしてもやっぱり君だったんだな!いつもと雰囲気が違うから驚いたよ」
「あれは休日というのもありますけど、学校では校則もありますから」
「それもそうか、と言っても俺は毎日冨岡先生にピアスの事を言われている訳だが……」
「え?……あ、本当だ」


 ははは、と苦笑する竈門くんの耳を見ればパン屋でも見かけていた花札の様なピアスが今も同じ様に両耳に揺れていた。……それ程に、一瞬でも離したくない程にそのピアスが大切なのかもしれない。
 あれでも確かそっちの金髪の人は風紀委員なんじゃ、というか嘴平君もちゃんと制服を着ていないからこれ絶対怒られてるんじゃ……と思いながらその二人を見れば、金髪の人には俺は地毛だからね!という見当違いの事を言われ、嘴平君には何見てんだとメンチを切られた。……美人の睨みは凄く怖いというのは本当だった。

 そんな事を思っていれば、唐突に嘴平君があっ!と声を上げた。


「おい炭八郎、もしかして言ってたのコイツか?」
「えっ?……あっ、まっ、待つんだ伊之助!待ってくれ!!」
「お前朝言ってたじゃねーか、昨日来なくてとかなんとかウダウダウジウジしてたじゃねーか」
「おまっ、ちょっっっっと黙ろうか!伊之助ェっ!」
「あ゙ぁ!?なっにすんだこの野郎!!」


 金髪の人がいきなり嘴平君の口を塞ごうとするのを俊敏に躱すと邪魔された怒りで嘴平君は彼に噛み付いた。凄い、反射神経もそうだけど先輩に対してあそこまで容赦無く怒鳴るとか本当に仲が良いのだろう。
 だが、気付けば立場がいつの間にか逆転していて、何故か追いかけられているのは金髪の人になっていた。

 彼は奇声を上げながら逃げ回っているのに対して嘴平君も違うタイプの奇声を上げながら追いかけ回していた。何か凄いなと呆然と見ていれば隣で栗花落さんが、いつもこんな感じだから見ていて飽きないのと笑った。あ、可愛い。

 うん、そうだね。言う通り確かにこんなに賑やかなら確かに毎日楽しそうだ。……けれど、その、一人残った彼が先程から一言も発さないというか、動かないのは何故なのだろう。
 栗花落さんもそれに気付いたのだろう、彼女は竈門君に数回呼び掛けた。


「炭治郎、炭治郎、」
「えっ、あっ、えっ!?ごめん、何だ!?」
「それはこちらの台詞、炭治郎こそ何か変」
「そんな事は無いぞ!?あぁ!」
「……炭治郎は自負する程、嘘が下手くそ」
「それはバレバレだって言いたいんだなカナヲ……」
「そう」


 竈門君を言い負かした栗花落さんはふふ、と笑いとても満足そうに見える。確かに、私から見ても表情が可笑しかったから彼は相当嘘をつけないのだろう。
 栗花落さんは詳しい事は分からないけれど頑張ってと竈門君に言うと、少し離れた所でじゃれあっている二人の方へ立ち上がって行ってしまった。

 正直私は展開に追い付いていないし、皆が話していた会話にもついていけていないので、正直この状況はどうしたら良いのだと内心頭を抱えている。
 一人勝手に焦っていれば、竈門君から上擦った声が聞こえた。


「っあ、あの!さっき伊之助が言ったことはあまり気にしなくて良いからな!」
「え、あぁ、あの私がどうとか……よく分からなかったので大丈夫です」
「そ、そうか……それはそれでなんか、こう……いや俺は長男だ、切り替えるんだ……」
「竈門君?」
「いや!それなら良いんだ!それより昨日は珍しく来なかったが何か用事があったのか?」
「あぁ、昨日はお恥ずかしながら風邪を引いてしまって……なので今日はお弁当なんです」


 それを聞くと竈門君は慌てたように、もう体調は大丈夫なのか!?無理してないか!?とまるで親の様に心配をしてくれた。
 私は大丈夫、もう完璧に治りましたと告げれば彼はホッと胸を撫で下ろした。 ただの常連の私を心配をしてくれるなんて本当に彼は優しい人だなぁ。

 それから休日に買っていたパンはお昼用だったのか、と言われたので私は頷いた。


「いつもあのパン達をお昼に食べるのをここ数ヶ月ずっと楽しんでいたので……なので自業自得なのですが、今日は少しばかり気落ちしているんです」
「そう、なのか?」
「はい、私にとって竈門ベーカリーのパンは全部とっても元気をくれて、温かい気持ちにさせてくれるんですよ!」


 そう言ってから私はハッと我に返った。しまった、お店の人に力説してしまった。何やっているんだ私、これじゃあ痛いパン大好き女がパン屋さんに語って告白した様なものじゃないか!
 何これ凄い恥ずかしい、顔から火がでそう。穴があったら入りたいと思っている私を他所に、竈門君は何故か笑顔で本当か!と私の汗ばみ緊張して握られたままの手を取った。

 にぎっ……!?まって待って、何で私の手は竈門君に握られているの。何なら段々距離が近付いて来ている気がする。多分彼は意識してない、だって表情が、目がキラキラしてる。パン屋で何度か見た嬉しそうな顔。


「かま、竈門君……!」
「そう言って貰えると本当に嬉しい!俺も、苗字さんの楽しそうに選ぶ姿を見て元気を貰っているんだ」
「……えっ」
「苗字さんはただパンを買いに来ているだけだと思うが、俺はいつも元気を分けてもらっていて……そうか俺もちゃんとあげられていたんだな」
「そ、そうですね、貰ってます……??」


 いきなりの発言に私の思考は固まった、これ以上予想以上の発言が彼の口から飛び出れば私の思考回路はショートする自信がかなりある。何なら気を失う自信もそれなりにある。

 私は勇気を振り絞り竈門君に近い、と言えば流石の竈門君もこの距離に気付いたようで慌てた様子でごめん!と頭を下げた。……あの竈門君、手は、離さないんですか?
 私が手と竈門君の顔を何度見しても彼は気付いていないのか離さず、そのまま世間話へと移行する。話はいつもパン屋で行われるものと同じ筈なのに、いつもはちゃんと話も聞けて入ってくるのに。何で今日はこんなにも入ってこないの、さっきから竈門君の声が片方の耳から入っては流れていく。もう、勘弁して……!


 遠くで竈門君の慌てふためく声が響く。
 そんなに慌てるなら頼むから、距離感を、自覚を、意識し直して下さい。私のような二次被害が出る前に、本当に切実に。竈門君、貴方はただでさえ顔が良いのだから。

 そう思ったのが最後、私の意識は脳のキャパオーバーを起こし闇へ落ちた。





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