※生理ネタ



「っぅゔ……い゙だい゙……」
「うわ何、どした?」
「つきのものでしにかけてる……」
「そっかぁ、体勢は起きてる方が楽なの?」
「ん……いまは」
「ならコレ膝にかけて、ちょっと待ってて」


 リビングで蹲っていれば、自部屋から出て来た同居人が驚いた様にこちらに寄ってきて目線を合わせてきた。そして落ち着いた様に状況確認を済ませた彼が私にブランケットを手渡してきたかと思えば、おもむろに私を抱え立ち上がる。
 すぐ戻るから、と彼は私を丁重にソファの上に座らせるとポンポンと優しく頭を撫でてきた。今の私は通常の半分以下の思考力しか無いので、特に何も考えずにコクリと一つ頷く。するとそれを見た彼は「ん、良い子」と小さく微笑んで、宣言通り何処かへ行ってしまった。

 それを見送り、私はソファの上で蹲る。彼に貰ったブランケットは暖かく、幾分か気持ちが和らいで強ばっていた体の力が抜けた気がした。が、すぐに腹部へ鈍痛が走りブランケットを握り締めながらお腹を温めるように抱え込んだ。
 いたい、いたい、いたい。下腹部が重い、何かに鷲掴まれて絞られている様な。時折混ぜられている感じもして、気持ち悪い。そのせいで下半身の力も抜けるし、血行が悪いのかひんやりとして寒い。どれだけ服やブランケットを纏っても、この血の気が引いていく感じは消えてはくれない。

 普段は全然重くないのだ。だから多分、余計に辛く感じる。本来なら我慢せずに薬を飲めば良い話なのだろうが、普段必要としないから手元にある訳もなく。薬を買いに行くにも、必要としている私本人が行けないのではどうしようも無い。
……先程の同居人に頼むというのも一つの手なのだろうが、それこそ彼は分からないだろうしなぁ。


「お待たせーって……こーら、そんなに強く握り締めたら手を痛めちゃうだろ?」
「ぅ……だって、こうでもしないと逃がせない……」
「んー……なら俺と手、繋ごうか。どうせならそのギュッとするの、俺に頂戴?」
「……やだ」


 それじゃあ善逸の手が痛いじゃないか、そう思い小さく首を振り拒否する。だが、彼の中では最初から決定事項だったらしい。スルスルと私の固く結ばれた握り拳を解き、ブランケットの代わりに自身の手を滑り込ませた。ご丁寧に絡ませて。
 一度は解こうとしたものの、きゅっ、としっかり握られた彼の手は今の私の力では解けず早々に諦めた。……後で痛い!なんて騒いでも、私知らないからね。

 戻って来た彼は「はい、コレ」と言いマグカップを手渡してきたかと思えば、器用に手を繋いだまま座っている私の後ろに回った。そして私を抱え込む様にして、まるで背もたれの様に背後に収まる。
 そして片手は絡まったまま、もう片方の手はするりと私の腹部へと滑り込んできた。私より一回りほど大きな手が私の下腹部に添えられ、暫くすればじんわりと暖められていく。


「飲めそうだったらソレ、ゆっくり飲んでね」
「これ、ココア?」
「そ、温かくて甘くてホッとするでしょ?」
「……ありがと、いただきます」
「どうぞ、召し上がれ」


 もわもわと上がる温かい湯気と共に、ふんわりと香ってくる甘くて優しい匂い。それですらホッとするのだから、不思議なものだ。
 ふぅふぅと冷まし、彼の言う通りゆっくりと飲んでいく。その度、じんわりと胃が温かくなって、全身もポカポカとしていくのがよく分かった。

 後ろから抱き抱えられて安心するし、下腹部ではゆっくりと優しく円を描くように摩ってくれて暖かい。それでいてブランケットやココアまで淹れてくれて、彼が居てくれて良かったなぁ……と改めて頭の片隅でぼんやりと思う。

 温められた体と彼に与えられた安心感で、いつの間にか下腹部の違和感は最小限に治まってくれていた。


「お、顔色が戻ってきたね。とりあえず一段落は治まった?」
「……うん、ありがとう。善逸は凄いね」
「え、何が?」
「だってもう、善逸のおかげでほとんど辛くない」
「俺は調べた物を実践しただけだよ、凄いのはネット」


 でも、名前が楽になったのなら良かった。と何処か安心した様に微笑んだ善逸は、お腹に添えていた方の手で私の頭を撫でる。
 それにしてもさらさらと髪を梳く様に撫でられ、少し擽ったい。擽ったさに耐え切れず少し頭を動かせば、もう少し触らせて?と彼は控えめに笑いながら掬いあげた私の髪に軽く口付けた。

 今回の恩人の頼みとあっては仕方ないので暫くそのまま大人しくしていたが、今度は段々と眠気がやってきてしまった。温かくなり安心して、一定間隔で寝かし付けの様な行為という三拍子が揃えば睡魔が襲ってくるのはほぼ必然で。
 うつらうつらとし始めれば、それに気が付いた彼が撫でるのを止めてしまう。危ないと判断したのかマグカップも取られてしまった。


「眠い?」
「んー……」
「ならベットに行こっか、運ぶね」
「いい……もうちょっとおきてる……」
「無理しないの、目だって閉じちゃってるじゃんか」
「やぁ……」


 もう少し善逸と一緒に居たい。実際にそれが声に出ていたかは分からないが、そう思っていた私は子供の様にイヤイヤと首を振る。これ以上彼の手を煩わせるのはどうかとは思う、思うのだが。……それでも、今は一緒に居たい。居てほしいと、そう思ったのだ。
 だが悲しいかな、自身の限界は分かるもので。抵抗虚しくどんどんと私の意識は闇の中に落ちていく。目も開けて善逸を見たいのに全然開かなくて、よく話に聞く接着剤でしっかりと固定な様な。

 まぁ結局最後は、ぐずる子供を宥めるように沢山の優しいキスを顔の至る所に降らされながら、呆気なく彼に説得されてしまったのだけれど。


「愛しいお前の滅多に無い我儘は聞いてあげたいところだけど、今は名前の体調が最優先」
「……」
「大丈夫、ずっと近くに居るよ。だから安心して寝な、ね?」
「……ほんと?」
「勿論、約束する」


 その言葉を聞いて私が抵抗にもなっていなかった抵抗を止めれば、彼にまたゆったりと頭を撫でてから「ありがとう」と、何故か礼を述べられ額に一つキスを落とされた。今日お礼を言わなければいけないのは、ずっとずっと私の方なのに。
 今はもう眠過ぎて言えないけれど、また後で。暫くして目が覚めた時に改めて沢山お礼を伝えよう。

 最後の最後。ギリギリのところでそう決意した私は、今度は完全に襲いかかってくる睡魔へと身を委ねたのだった。


「……おやすみ、また後で。良い夢を」





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