「ぎぃやあああああああぁっ!」
「うるさっ、ただの虫じゃん……」
「あー死ぬ死ぬ死ぬ!これ死ぬってマジで、今回こそ俺は死ぬんだぁあーーーー!!」
「それ前回も言ってたし、でもって今生きてるよ」
「前回は運が良かったんだよ!炭治郎と伊之助が居たし!お前も居たし!!」
「いやあんた自分で戦ってたからね?ガッツリ鬼倒してたから」
「いやいやいやお前こそ何言ってんの?冗談キツいわ……」


 先程のハイテンションから打って代わり、通常の切り返しをされたので私は思わず低音であ゙?と返してしまったのは悪くないと思う。手足が出なかっただけ今回は良い方。
 だっていきなり何言ってんだコイツ、頭大丈夫か?みたいな目で見られたら誰だってイラッとするでしょう。私が別に嘘を言っている訳では無いから尚更。

 彼、我妻善逸は通常はこんな感じの喧しいヘタレだが精神的に追い詰められ脳の情報量容量がパンクしたり、物理的に気を失うと覚醒する。
 簡潔に言うと眠った方が強い、意識が無い方が本能的に習ったことを余計な力を入れずに発揮出来る剣士。尚、本人は寝ている時の事は記憶に無いようで自身が鬼を切った後に目覚める事が多いのだが、その足元に首が転がっているのを見て勝手にビビり勝手にこちらに感謝してくる。
 ……倒したのは善逸なのに、ちゃんと実力あるのに。

 自身の力を自身で否定してしまうのは覚えていない事とはいえ、少し悲しい。


「?なぁ、どうかしたか?何かお前の音……」
「別に特に何も?とうとう自慢の耳も難聴になったか」
「はぁ!?んな訳無いだろ!めっちゃ聞こえるわ!!お前の血の巡りの音だって綺麗に聴こえるわ!!!」
「うっわ、そこを選ぶって変態……モテないのそういう所だぞ、我妻さん」
「あぁん!?おっまえさっきから喧嘩売ってんのか!!つか、他人行儀ヤメテ!!?」
「売ってない、私の喧嘩は高いから君には売らないよ」
「言い方ァ!そりゃ弱い俺が名前に勝つのは無理だけどさぁ!!」


 ……またそうやって卑下をする。私はまだ彼と知り合って日も浅く過去に何があったかとかは知らないから、こうやって卑下する理由も知らない。(まぁ特に理由も無くただの性格って可能性もあるけれど)
 それでも、彼のあの戦う姿を見てしまったらもう腰抜けなどとは思えない。

 それに彼は心根がとても優しい。耳で色々と聴こえてしまうと言うのもあるのだろうが、それを抜きにしても彼自身が起こす行動は全て優しさで溢れていた。
 もし私にも彼の様に人の音が聴こえたのなら、彼の音はとても優しさに溢れながらも何処か脆く危ういのだろう。
 こんな時、私にも炭治郎や善逸の様な特殊な才があれば良いのにと常々思う。まぁそれはそれで苦労もありそうだが。
 ……特技か、強いていえば少しだけ反射神経が良いこと位だろうか。と言ってもやはり人並み寄りだが。


「……なぁ、やっぱりお前の音さっきから時々変だ、何かあったのか?」
「だーから何も無いってば、しつこい男は嫌われるよ善逸」
「俺は嫌われてねーよ!?……あれ嫌われて無いよな?大丈夫だよね?っじゃなくて誤魔化すなっての!」
「もー、どんな音が聴こえたかは知らないけど本当に心当たりが無いんだってば」
「いやでも、」
「しつこい、これ以上続けるならここで別行動」
「待ってやめてそれだけはやめてよぉおおおっ!今この場で俺を守れるのは名前だけなんだよぉおおおおおっ!!」


 ならもうその話題は出すなと未だみっともない顔をしながらも納得していない善逸に私は良いね?と額を物理的に押しながら念押しした。
 今は一応任務中なのだが、いまいち気が抜けるというかなんというか。
 普通なら善逸の耳を頼りに何処に鬼が居るとか、奇襲が来るなら何処からとか聞けるのだろうが基本的に彼はこんな状態なので無理に等しい。何なら善逸の場合は叫ぶ自分の声が邪魔してる。
 いつもは大体炭治郎が匂いで気付いたり、伊之助が野生の勘を働かせていち早く気付くのだが今回は二対二で綺麗に分かれてしまった。

 ……うーん、善逸では無いが少し私も不安になってきてしまった。善逸がピーピー不安を喚くせいで少し引きづられてしまったかもしれない、こういうのは一度感じてしまうとそこからは陥るのがとても早いし、パニックの原因にもなるからなるべくは考えたくはなかったのだが。


 そんな風に考えている間にも隣の金髪タンポポは相も変わらず不安を嘆いている。……いっそ一回、意識を落としてやろうか。
 そんな事を一瞬思えば、彼は嫌な予感(この場合は音かもしれない)がしたのだろう。こちらを勢い良く見て距離を置き、自身を守る様に抱き締めた。
 いや、別にとって食べる訳じゃないんだからそんな女子みたく小さくなって震えられても……戦いぶり知ってるから特に加護欲湧かないし……。
 私はそんな光景を見て、呆れも含めてハハッと乾いた笑いが出た。多分目は笑ってなかったと思う。
 その後も適当な会話をしていれば案外早く目的地に着いた。


「鴉が言うにはこの町に出たらしいけれど」
「でも何かその割には結構賑わってるんだな、勿論それが悪いって訳じゃないけど」
「そうだね、不安で暗いよりかは全然良い」
「なぁ、取り敢えずまだ日も高いから一旦藤の花の家紋の家に行こうぜ、この町はあるみたいだ」


 その言葉に同意し一息つくことにした。
 藤の花の家紋の家に着けば家主さん達は丁寧に迎えてくれて、とても良くしてくれた。

 毎度の事ながら思うが奉仕力が凄い、昔助けられたからと言ってここまで普通出来るだろうか。正直私なら出来ない、例え先祖が助けられていたとしても私はそうじゃないから全く知らない人が家に尋ねてきて民宿と同じになるなんて耐えられないだろう。
 それでも、こうしてあの家紋を掲げて私達鬼殺隊に良くしてくれるのはそれだけ鬼の脅威が分かっているのだろう。だから一日でも早く平和な世になる様にと私達を支えてくれる縁の下の力持ち、感謝しかない。


 あれから時間も進み現在日没、鬼の活動時間が来た。

 さぁて夜の町に繰り出すかと意気込み一歩踏み出せば、クンッと羽織の裾を引かれたので振り返ればその先は黄色い塊に繋がっていた。
 ちょっと、と抗議する様にその固まりを揺すれば俯いた頭が横に揺れる。その間にも羽織はどんどん蹲った黄色の中に吸い込まれていく。
 私はまたかと呆れながらもいつもの如く諭す、と言うよりはもう彼に対してはあやすと言った方が近い。


「善逸、ここに居たって任務は終わらないよ」
「うぅ、分かってるけどさぁ……」
「さっさと終わらせて帰ってこよう、それでゆっくりしようよ」
「死ぬかもしれないだろぉっ!そうしたらもう戻ってこれない……」
「大丈夫、善逸は死なない。絶対に」
「何で毎回そんなハッキリと言いきれるんだよぉ……!」


 そういうと善逸はメソメソと情けない顔で泣き出す、顔を構成する全てがだだ下がりだよ。
 あぁもう、顔が涙と鼻水でぐっちゃぐちゃ。それなりに顔は整っているのだから毎度変顔してたら勿体無いというのに。
 私はあやす様に柔らかい金髪をゆっくりと撫でる。……こんな時にあれだが上から見るとめっちゃタンポポ感凄いなコイツ。

 暫くそうしていれば落ち着いたのか羽織の拘束が緩んだので、その隙を見逃さずスルリと素早く引き抜いた。うわちょっと濡れてる、これ涙と鼻水と涎のどれだろう……。


「あっ!」
「ほらほら、さっさと行くよー」
「ちょっ、まっ、行く、行くよ!行けばいいんだろぉおおおおおっ!」


 スタスタと歩けば後ろから置いてかないでくれよぉ!と情けない叫び声が辺りに響いた。
 ……善逸、今は夜でしかもここは人の家だということを忘れてないか?


 さて駄々っ子の説得が終わり町での鬼捜索が始まればそこからは早かった、やはり一番の功績は善逸の耳が大きい。音が聴けてしまえば彼には直ぐに分かる。
 それに従って鬼を見つければ、それはまだ鬼になって年数が経っていないであろう数字無しの鬼。
 つまり人を全然食べていないから、比較的弱い部類。

 無論、弱い方だからと言って一人も食べてはいない訳では無いので油断はしなかったが。
 私も自身の呼吸を使いながら奮闘したが、やはり眠った善逸には適わない。大きな音と速さであっという間にカタをつけた。
 ちなみに気絶した理由は転んで打ち所が悪かったらしい。その時に切ったのだろう、頬に一線の切り傷が出来ている。
 善逸は暫くしてからいつも通り鼻提灯がパチンと割れると同時に目を覚まし、いつも通り鬼の首に驚き、いつも通り私が倒したと勘違いをした。
 ……いつか、彼が自身で倒したとちゃんと認識出来る時がくるだろうか?くると、いいな。

 そんな事を勝手に思いながら私は手拭いを渡し、頬が切れてるから抑えておきなと告げれば彼は礼を言い素直に頬をあてた。
 この後はもうゆっくりと帰るだけ、行きはあれだけ騒いでいたのに帰りは何も無いのが分かっているから驚く程に静かだ。……普段からこれ位ならなぁ、そうしたら炭治郎とか苦労しないのに。
 普段から炭治郎は何かにつけては長男だからって言うけど、あの面倒見の良さはあそこまで行くと母親感が凄い。時々何も考えてないとあれ私炭治郎から産まれたんだっけ?って思う位に炭治郎の包み込みが凄い。

 閑話休題。


「あ〜〜〜!着いたぁ〜帰ってこれた〜〜!」
「改めて、お疲れ様」
「うん、お疲れ〜〜……」


 帰ってきた私達を再び出迎えてくれる藤の花の家紋の家の家主さん、手際良くお風呂や夜食の準備までしてくれていた。もう本当に感謝しかない。取り敢えず風呂に入ろうと思い、それを告げればテキパキと動いていく。凄い、無駄がない……。
 ちなみに善逸は夜食も頼んでた。

 お風呂から上がりさぁ後は寝るだけだと部屋に帰ってくれば、我が物顔で寛ぐ金髪が居た。何なら貰ったであろう夜食を食べながらお帰りーと言っている。
 私は眠気や疲れで幻覚でも見たかと思い一旦開けた障子を閉めれば中からなんで閉めるんだと言う抗議の声が聞こえてきたので、夢じゃなかったと溜息をつき諦めて中に入ればそこには膨れっ面の少年が一人。
 こういうのを見る度に毎回本当に彼は私達より年上なのだろうかという疑問が浮かぶ。正直私達の中ならずば抜けて炭治郎の精神年齢が高いので尚更だ。
 ……それとも私達が歳相応じゃないのかな、鬼殺隊に所属している者は大体はしっかりしているというか入るまでの経緯的にしっかりせざる負えなかった者が多い。まぁ、かくいう私もそんなありふれた理由なのだけれど。
 その為、そういう弱みの様なものを普段から見せるものは善逸を含めて少数。

 自身の気を強く保たなければ、ただの泣いている子供では仇は討てないのだから。


 本日何度目かと思う溜息をつき、部屋に帰れと言えばえー!と反論された。……この野郎、ケツ叩いて放り出してやろうか。
 もう遅いし疲れたし寝たいのだと直球で告げれば、体力ねーなぁーと軽く笑うので私は反射的に組手技をかけてしまった。ギリギリと力を込めていたからか直ぐにバンバンと畳を叩く音とごめんなさい降参です舐めた口聞きましたァッ!という情けない声が上がった。すぐに降参する位なら最初から無意識の挑発なんてしなきゃいいのに。

 私は優しいので解放してやれば、善逸はベシャッと畳に崩れ落ちた。
 顔面を畳に付けたまま、ゔぅ……と唸る善逸を横目に私はテキパキと寝る準備を進めていれば、その音に気付いた彼が顔を上げてズリズリとほふく前進をして邪魔してきた。あっ、コイツ折角綺麗に敷かれていた布団崩したんだけど!?
 ……本当に何なのだ、今日はいつもより度が過ぎている気がする。いつもはこんなにベッタリじゃない、何故こんなにも構ってちゃんになっているのか全く分からない。


「善逸、」
「ん、なぁに」
「もしかして私に何かして欲しい事でもあるの?」
「んー……あるような、ないような」
「突飛な事じゃなければ聞くけど」
「おっまえそういう事ホイホイ言うんじゃありません!……まぁ今回はその言葉に乗るけどさぁ」


 善逸はそういうと、暫く言いにくそうにいい淀みながらもボソボソと小さな声で何かを喋った。
 私はそれを聴き取れなかったので何て?と聞き返しながら善逸に耳を近付けた。
 すると少しやけになったかの様に今度は少し大きめの声で彼自身の願いとやらを口に出す。


「っだからさぁ、少し手を繋いでも良いかって言ったんだよぉっ!別にお前が嫌だったら良いけどな!!」
「……それくらい、別に良いけど」
「えっ」
「自分で言っておいて何驚いてるの、ほら」


 私はそのまま彼の手を取りギュッと握った。ちなみに今の体制は向き合って両の手を繋いでいる状態。
 善逸は未だ状況が飲み込めていないのか呆けている、自分で望んだのだからいい加減帰ってきてほしいものだ。
 それにしても手を繋いで欲しいなんて彼は不安にでもなっていたのだろうか?人は落ち着きたい時に人の温もりを感じると安心する人が多い。

 今日の任務は私達だけ、いつもならこの状態も炭治郎が担当していただろう。もしかしたら伊之助や禰豆子ちゃんだったかもしれないけど。
 ……でももう今日は任務終わったのだから何も不安になる事なんて無いと思うのだけれど。


「善逸、善逸ってば」
「っひゃい!」
「嫌じゃないなら理由を聞いても?」
「え、あ、うん、大丈夫……少し不安というか、昂りが残ってたというか」


 それで少し落ち着きたくて、と最後は俯きながら言葉も尻すぼみになっていき、それと同時に握られた手に力が込められた。

 あぁ成程、何となく分かる気がする。時々私も同じ様に戦闘後の興奮が後に引く時がある、ちなみに私の場合は鍛錬で発散する。
 善逸に落ち着きそう?と聞けば静かに頭を横に振り、心做しか握る手の力も強まった気がする。……んん、これは寝れそうに無い。どうするか。
 一応頭の中には最終手段があるのだが、これだと逆にもっと善逸が落ち着きなくなりそうな気が……あ、いやでも待てよ?よくよく考えれば善逸は私に対しては禰豆子ちゃんや他の女の子みたいな対応はしないな?
 普通ならこれは屈辱案件みたいになるのだろうが今は都合が良い、意識されていないならいける。


「なぁ……流石に何か反応してくれよ」
「よし善逸、布団持っておいで」
「は?」
「善逸は落ち着くまで人の温度を感じていたい、でも私は眠い」
「えっ、う、うん」
「だから布団持って来い」
「待って話が見えない!!お前さては相当眠いな!?」


 騒ぎ立てる善逸を横目に私は説明した。
 このままでは二人してこの状態が続く、それは睡眠時間を削られるという事もあるから両者にとっても良くない。だから善逸がこの部屋に布団を持ってきて一緒に寝ればいい、それなら手も繋いでいられるし布団の暖かさも足されて一石二鳥。

 だからはよ布団取ってこいと私が言えば善逸は意外にも反論した。


「いやいやいやお前分かってる!?男女!俺ら年頃の男女だからね!?」
「そんなの知ってる、だから何」
「じゃあ駄目なの分かるでしょ!?万が一があるかもって考えなかったの!?」
「無いって結論が出たからこうして提案したんじゃん……」
「待ってそれって俺今、完全に男として眼中に無い発言された?」
「いや私をそういう目で見てないのは寧ろ善逸の方でしょ?」


 いやまぁ私も善逸を恋い慕う気持ちがあるかと問われると良く分からないのだが。

 耐え切れず欠伸をしながらそう思っていれば、善逸がは?と低い声を発し、握っていた手を離すと次に勢い良く肩をガシリと掴まれた。結構痛い。……え、何、何か顔が怖い気がするんだけど。
 正直今日一番、炭治郎や善逸の相手の感情が察せる能力が欲しいと思う。何ならこの雰囲気に少し目が覚めた。
 痛い、と身を捩り逃れようとするも逆に更に力を入れられてしまい痛い目をみる事になった。


「ちょ…っと、善逸、痛いってば……!」
「……」
「ねぇってば、聞いてる?」
「あのさ、どうして俺が名前をそういう目で見ていないって自信持って言えたの?確証なんか無いじゃん」
「え?いやだって私と禰豆子ちゃんや他の女の子への接し方全然違うじゃん」
「……あー、そっかぁ、名前にはこっちの方が良いと思ったんだけど裏目に出ちゃったのかぁ」


 私がそう答えれば善逸は一人納得したかのように頷いた。え、何、結局この状況は何なのだ。
 もう解決したなら離してくれと肩に置かれる手を退けようとすれば、逆にその手を取られて気付けば体が善逸の方へ傾いていた。
 そしてそのまま善逸の腕が私の背中に周り苦しくない程度に、けれど逃げれない力で抱き締められた。

 善逸が、近い。彼の頭が私の肩にあり髪の毛が首に当たって擽ったい。何で、何でこんな事になったんだ?
 可笑しい、さっきまで何ともなかったのに。眠気で早く寝たかったのに。

 今は目が冴えて、動悸が止まらない。


「……俺さぁ、さっき眼中に無い発言された時本当に心臓止まるかと思ったんだよね」
「は、」
「けどそうじゃなくて俺がお前の事を眼中に無いって思ってるとかさぁ、色々努力してた俺に謝ってほしい位だよ」
「努力って、」
「もうこうなったから言うけど、名前に近づく為の、好かれる努力」


 そう言うと善逸はあー、と唸りながらグリグリと私の肩に頭を擦り付ける。

 まって、待ってほしい、もしかして今私は告白された?えっ、善逸は私の事が好きだったの?
 突然の事に思考回路が焼き切れそうになっていれば、私が何も反応無いしない事を良い事に更に抱きすくめられた。
 流石に更に密着させられれば意識は強制的に戻ってくるわけで。


「ちょっ、まっ、近い!!」
「そりゃ抱き締めてるからね」
「ちょっと開き直らないで、離して」
「やだ、それに安心させてくれるって言った」
「そっ…れは手を繋ぐって話であって!」
「もうここまで来たら一緒だって、何なら俺はこのまま寝ても良い」
「いやあの発言聞いて寝れる訳無いでしょ!?」
「あー、はいはいもう遅いから布団入ろっかー」
「善逸!!!!」


 もう遅いから静かにねー、と善逸は私の背中をポンポンと叩いた。これではまるで私が我儘を言っているみたいじゃないか!というか何かちょっと性格変わってない!?
 そのまま全力で抵抗するも、善逸もそれなりに本気だったのか全く逃げられず簡単に持ち上げられた。……決めた、明日からもっと鍛えよう。

 色んな意味で硬直していれば、善逸が何か思ったのか大丈夫、と呟く。


「流石に両想いになっていない子に手を出したりしないよ」
「……この状況は手を出したに入るんじゃないの」
「んー、まぁ今日は特別……みたいな?」
「私に拒否権無さすぎでしょ」
「ははは」
「いや誤魔化せるわけないから」


 ……あぁくそ、布団の暖かさと善逸の温かさで飛んだ眠気が戻ってきた。この状態で無防備に寝てはいけないのは馬鹿でも分かるのに。
 それでも何故か柔らかく心地良いと感じる雰囲気を出している善逸に絆されるかように、私の体からはどんどん力が抜けていく。
 何なんだ、本当に。……あんな顔、初めて見た。

 最後の抵抗に腕に力を入れ少しでも距離を取ろうとしたが、あっさりと引き寄せられてしまった。何ならちょっと笑ってた気がする、明日になったら覚えてろよ善逸。
 そのまま抵抗も虚しく私の意識は落ちていった。

 次の日から善逸の態度が分かりやすく変わったのはまた別の話。








自覚をさせて、させられた
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