定番の一つであるお家デート。最初の頃は今思い出しても二人してギクシャクして、まるで機械の様だったのを今も時折思い出す。けれど月日が経ち、何度も重ねていけば人というものは慣れていくわけで。現在は同じ空間で双方が好きな事をそれぞれして過ごす、といった感じで安定した。
 勿論、恋人なのだからそれなりに接触はする。例えば俺が彼女を後ろから抱き締めて彼女と一緒に雑誌を読んだりだとか、逆に彼女が寝そべっている俺の背中を枕にしたりだとか。それくらいの事を普通に出来るくらいには慣れた。それにお互い構って欲しい時は好きにくっ付くのが分かっているから、お互いが好きにさせている。そんな、俺達には居心地の良い関係性を築けたと思っている。

 でも、でもだよ。ちょっと今日は可愛い俺の彼女さんに一言申したいと思うんだよね。


「ねぇ……それいつまでやるの?」
「え?ごめん、もしかして煩かった?」
「いやそういう訳じゃ無いんだけどさぁ……」


 俺が口ごもっている間にも、絶え間なくシャンシャンと彼女の携帯から音が聞こえてくる。チラ、とその画面を見れば、3Dモデルのキャラクターが滑らかに動き、それは曲に合わせて踊っている様だった。彼女がしていたのは所謂リズムゲーム、音楽に合わせて流れてくるノーツと呼ばれるシンボルを叩いたりフリックするゲーム。
 だが問題はそこじゃない、別に良いんだよリズムゲームをするのは。俺だってしますし。でもね、問題はその画面で踊っているキャラクターの方なのよ。

 今彼女がやっているのは所謂キャラクターが歌っているタイプのもので、簡単に言えば画面の中で選択したキャラがパフォーマンスを行っている様な感じ。二次元の簡易的ライブとでも言えば良いのかな、それを俺の愛しい彼女はやってる訳。もう画面に釘付けなの、ずーっと画面を真剣に叩いてるの。時折ミスったら「あっ」とか聞こえてくるのは可愛いなぁ、とか思うよ?思うけども!でもちょっとその画面に関しては、意義を申し立てたいと思います!!


「前にやってたのもっと可愛くなかったっけ」
「それもやってるよ、これは最近リリースされた好きなシリーズのやつ」
「へぇ……でも一旦休憩したら?」
「んー……けど今イベ中だし、もう少しで目当ての報酬取れそうなんだよね……」


 リザルト画面が表示された所を狙ってそう提案するも、少し思案した彼女はそう言ってすぐに次の楽曲を選択してしまう。くそぅ、考えてる様で一切考えてなかったなお前。こっちを見ずに迷いなく操作しやがって、泣くぞ。
 少ししてまた画面の中でライブが始まった。選択された楽曲であろうメロディーと、それを担当するキャラクターと思われる歌声にシャンシャンと彼女がリズムをとる音。画面の中でキャラクターが動く度に、俺の彼女からもワクワクドキドキといったテンションの上がっているであろう音が聞こえてくる。うん、可愛いね。分かってる、これが好きな事をする時に鳴らす音だって事は分かってんの。

 けどさぁ、例え画面の向こう側であったとしても!自分以外の男に夢中な彼女を見たら、誰だってモヤッとするでしょォ!?


「目当てって何、どれ」
「え、この子だけど……興味あるの?」
「べっつにぃ?何、コイツが一番好きなの?」
「この子も好きだけど、最推しは箱推し寄り」
「箱っ……えっ何、じゃあ最推しのイベがきたら今よりもやるの!?」
「えっ、うん」


 当たり前じゃん、と曇りなき眼で見返され、俺は何も言えなかった。うわ、本気で言ってる?この状況でも結構モヤったのに?これが最推しじゃないと??しかも最推しが箱推し寄りって事は、箱イベの時は更にヒートアップするって事じゃないか。そんなの無理、俺耐えられる気がしないんだけど。でもかといってイベントの期間中、一切彼女と接触出来ないのも絶対に嫌だ。だがしかし、こういう時に変に邪魔したら絶対に怒られるやつなのは分かっている。報酬やらの狙いがある時は特に。
……うぅ、でもやっぱ嫌なもんは嫌だ!!!!

 とうとうこの絵面に耐え切れなくなった俺は、丁度またリザルト画面になった所を狙って彼女の手から携帯を引き抜いた。


「は……ちょっ、何するの!?」
「っ俺と居る時はこのゲーム禁止!」
「何で!」
「例え二次元でも自分の彼女が他の男に夢中なのは嫌!だからです!!以上!!!!」


 近所迷惑レベルのクソデカボイスでそう宣言すれば、彼女はポカンと呆けた顔をする。何だよその顔は、本当なら俺だってこんな子供みたいな事言いたくなかったわ。でも仕方ないだろ、これが紛れもない本音なんだから。だからいい加減、いつまでも口を半開きにしてないで何とか言いなさいよ。こちとら一応、それなりに恥ずいんじゃい。


「……分かった」
「っえ、良いの!?」
「何驚いてるの、善逸がそう言ったんじゃん」
「や、だってまさかそんなにすぐ了承されると思ってなかったから……」


 簡単に了承されて体の力が抜け切りそうだったところに、でも一つ条件がある、と間髪を容れず彼女から交換条件を出される。そんな予想外の事に固まれば、別にそんな身構える程の難しい条件じゃないと彼女は俺が持ったままの自身の携帯を指さした。


「ソレで私が出来ない曲、フルコンしてくれたら条件呑むよ」
「いや名前が出来ない曲って絶対にその中でも最高難易度のやつだよな!?」
「うんそう、私は普通の腕前だから全然フルコン出来なくて」
「いや俺だって普通の腕前ですけど!?」


 何処が難しくない条件!?俺とお前、そんなに腕前変わらないのお前だって知ってる筈だよね!?それなのに普通に難しいを超えて難易度レベル鬼を突き付けてきやがって!!これもう絶対に俺のお願い却下された様なものじゃん、詰んだも同然のやつじゃん。

 だがここまできて黙って無理です、とすごすご引き下がるのは何か悔しいので、ブチブチと文句を言いながらも画面に向き合って曲を教えてもらう。そしてまずは楽曲を把握する為に聞いてみたんたが、これがクソ早い。テンポめっちゃ早いな、コレ。いやノリも良くて結構俺も好きなタイプの曲調だな、とか思っちゃったけども!……でもまぁ聞いて納得した、こりゃ難易度高いわけだわ。しかも最高難易度だからどうせ譜面も複雑なんだろ、知ってるんだからな。ほぼ同時に色々と流れてきやがって、指が攣りそうになるんだぞ。ものによっては毎度ヒィヒィ言ってるわ。
 リズムゲームは作り手側が全員が出来ないと世に出せないというのを聞いた事があるが、それが本当ならマジでよく出来るな制作した人達。神の集まりか?制作会社はリズムゲームの神域か何かなの??

 まぁ、そんなこんなでまずは一回やってみた訳だが────。


「くっっっそ早ェ……」
「ははは、頑張れ」
「畜生、悠々と菓子食いながら高みの見物しやがって」
「食べる?」
「食べる」


 はい、と口元に持ってこられたスナック菓子を咀嚼しながら唸っていれば、野生動物みたいと彼女が笑う。にしても分かっちゃいたが余裕綽々過ぎない?もう少し俺がクリアしちゃうかも……!って焦ってくれても良いのよ??じゃないとちょっと張合いが無さすぎるというか、何か俺が勝手に独り相撲してるみたいじゃん!!

 ぐぬ、と歯痒さと出来ない悔しさに眉を顰め口元を尖らせれば、そんな俺の表情を見た彼女からこれまた予想していなかった言葉を投げかけられる。


「最初は無理でも、善逸は反射神経が良いから慣れれば出来ると思う」
「え、」
「それにノーツの方だって最初は追えなくても、慣れてくれば善逸は追えると思うよ」


 善逸は呑み込みが良いから、と彼女は特に表情を変えず、未だお菓子を食べる手を止めないでそう言った。それを聞いて呆けた俺の口元にまたお菓子を運んでくれるので、俺は抵抗せずにソレを受け入れ口を動かす。
……え?何?俺今もしかして褒められた?もしかしなくても褒められたよね?いやもう、最高過ぎない?それってつまり、最初から俺が出来ると確信してこの条件を出したって事じゃんか。何その圧倒的な信頼感、嬉しいんだけど。口元のニヤつきがさっきから治まらないんだけど!
 ここまで言われちゃったらさぁ、もう期待に応えるしかないじゃん。良いでしょう、やってやる。やってやりますとも、最高難易度フルコンボ!……脳内でもう一人の俺がチョロいとかほざいた気がしたけど、そんなものは気の所為です!!

 速攻で終わらせてやるから今に見てろよ。終わったらこの苦労した分のご褒美と労りを要求してやるからな、今から覚悟しとけ。絶対に暫く離れてやんないからな。


「アッ、待っ、やばっ……!」
「へいへい善逸君、もっと華麗な指さばきを見せてくれ。今の君はキレがわぁるいぞぉー」
「おまっ、今は変な横槍入れんな……ってア゙ーーーーッ!もぉおおお後少しだったのにミスったじゃんかァッ!!」
「人のせいにするのは良くないと思います」
「いや視界の端で色々と動き回って俺の集中力を奪った奴がよく言えたなその台詞」


 この会話のすぐ後。奇跡的にクリア出来た俺は、先程の邪魔のお礼をたっぷりと色んな形でお見舞いしてやった。






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