「確かに大きい方が夢はある……かも」


 真面目な顔で友人達と話している私の彼氏であったであろう金髪の人物は、そんな台詞を大真面目に、重い声音で呟く。そして賛同する周りの男子共。……あのさぁ、別に人の趣味や好みを否定するつもりは無いよ?でもさ、そういう話題を話すなら時と場所考えようよ。一応君の彼女である筈の私、一斉に周りから哀れみの視線を向けられたの気付いてる?ねぇ。


「……名前、」
「……やめてアオイ、そんな目で私を見ないで」
「その、ごめん……」


 いつもならこういう下世話な話に対して怒り注意する真面目な友人のアオイですら、この何とも言えない表情。そりゃそうだよ、だってアオイは私のコンプレックスを一番痛い程よく知っている人物なのだから。そして同時に私の被害者でもあるんだけれども。
 このままあの会話聞いてたらそのうち自分が何しでかすか分からなかったので、アオイに一声かけて椅子から立ち上がった。そのよくある行動に慣れっ子のアオイもすぐに続いて立ち上がる。その顔は仕方無いと言いたげな顔だ。


「アオイさんアオイさん、どうやったら貴方みたいになるの?」
「その質問は何十回何百回とされてきたけど、個人差としか言えないんだってば」
「……本当にアオイってば私の扱い手馴れてきたよね、嬉しいやら寂しいやら」
「……それにこれも毎回言ってる事だけど、私は普通。私より大きい人なんてもっと沢山居るの」


 だから、毎回あの話が出る度に私のを親の仇の様に見るのは止めて。居心地悪過ぎるんだから。

 いつもの溜まり場、人があまり来ない階段の踊り場。はぁ……と溜め息混じりに零したアオイの言葉は、それこそ彼女が言ったように何十回何百回と聞かされた言葉であった。でも仕方無いじゃないか、私が一番親しいのはアオイなのだから。カナヲちゃんとかしのぶ先輩とかだって勿論好きだし仲も良いとは思っているけれど、それでも赤裸々に色々と話しているのはアオイなのだ。……というか、あの二人には違う意味でこんな事は言えない。
 カナヲちゃんにこんな事を言えば確実にしのぶ先輩に怒られる(アオイだと怒られないとは言ってない)し、しのぶ先輩とかもう次元がさぁ……元から持ってる物が違いすぎるというか、天からの賜り物っていうか。何なら殺意通り越して拝む気がするので、絶対に言わないと決めている。でも何か最近、しのぶ先輩に察されてる気がするのは私の気の際だと思いたい。


「もーいっそアオイが育てておくれよ……アオイが駄目なら誰か他の人ぉー……!」
「っは、ぁ!?急に何言い出すの!!」
「だってぇー……他に頼める人居ないんだもん」
「……言いたくは無いけれど、ちゃんと貴方には適任が居るじゃない」
「……やだ、絶対に嫌。何か負けた気がする」
「なに変な所で強がってるのよ……」


 呆れた視線を寄越しながら面倒臭いという雰囲気を全く隠さない友人を一周まわって尊敬していれば、ピロリン、と彼女の携帯が鳴った。


「……名前、やっぱりさっきの提案だけど今日だけ特別に呑んでも良いわよ」
「え?まさか育ててって言ったやつ?」
「そう」
「うっそアオイさんってばどうしたの……?」


 そのお気持ちは嬉しいけどさぁ、と未だ携帯画面を見ながらそう言った彼女の顔を覗こうとすれば、それを察知した様にパッと表を上げた。


「今日の放課後、保健室。私はやる事があるから先に行ってて」
「え、マジで?」
「必ず行って、良いわね?」
「い、いえす、まいふれんど……」


 何処か怖い雰囲気を纏ったアオイに押し切られる様に約束を取り付けられてしまった私は、ぎこちなくだが頷いた。えぇ……?一体アオイに何があったの?アオイは根っからの真面目気質だし、結構純粋な所あるからこういうお巫山戯セクハラみたいなのには乗らないと思ってたのに。まさかあんな真面目な顔でOKされるだなんて。

────それでまぁ、言われた通り放課後の保健室に来た訳なんですけど。


「どーして貴方が此処に居るんですかねぇ、しのぶ先輩……!」
「どうしても何も、私が貴方のお悩みを解決するからですよ」
「お悩み……?」
「あら、貴方がアオイに頼んだんじゃありませんか。“誰か育ててくれ”って」
「なん、で、それっ……!?」
「偶然貴方達が居た場所を通りまして、それでアオイに連絡を入れたんです」


……ああそれと、今回は私が押し切った様なものなので、間違ってもアオイの事は怒らないであげて下さいね?

 ふふ、と和やかに微笑む先輩ほど怖いものは無いのを私は嫌という程に知っている。これは怒ってるやつだ、アオイにセクハラ紛いの事言ったから怒ってるやつだ!ごめんなさい!今更過ぎるけどごめんなさい!!

 ひく、と口元を引き攣らせれば、それを見たしのぶ先輩はクスクスと笑う。


「どうして脅えているんですか?望んだのは貴方の方なのに」
「先輩がそういうマッド寄りの顔してる時は大抵嫌な予感しかしないからですよ!!」
「あら酷い……と、言いたいところではありますけれど、本能の危機管理能力が働いているようでなによりです」
「やだ嘘しのぶ先輩が自分から認める時って一番最悪な時じゃん!やだァッ!!」


 ギャーッ!と叫び声を上げて扉に手をかけようとすれば、素早く腕を引かれて止められた。掴まれた場所はギリギリと締められている。痛い、痛いです先輩!!もう少しだけ後輩を大事に扱って頂いてもよろしいですか!?
 そんな事を口に出しながらも必死に抵抗したが、その抵抗虚しくズルズルと引き戻されてベットへと強制的に座らされてしまった。

 そして間髪入れずに目の前にずいっ、と差し出された一つの小瓶。ちゃぷちゃぷとその中で揺れる薄桃色の液体。目の前には輝かしい笑顔のしのぶ先輩。嫌な予感しかしない。


「さぁ、グイッとどうぞ!」
「嫌ですけど!?」
「あら大丈夫ですよ、これはホルモンを活性化させて育てやすくする為のものですから」
「いやでもこれ先輩の自作……」
「良いからさっさと飲みやがり下さいな」


 プチリと小さく何が切れる音がしたか思えば、ガッと顔を固定されて小瓶を口元に押し付けられた。最初は口を一文字にして拒んでいたが、先輩は固定していた手を離すと今度はその手で私の鼻を摘んだ。もう顔を固定しなくても、小瓶を押し付けられている私が下手に動けないのが分かっていてそういう事をするのだから、しのぶ先輩は容赦が無い時は本当に容赦が無い。……そして暫くして、限界が来た。
 一文字に引き結ばれた口が緩むと同時にコポリと音を立てて減る小瓶の中身。どんどん口内に流れてくる小瓶の中身を必死に飲まないようにしていたのだが、鼻は摘まれたままで口も液体があり呼吸が出来なくて、遂に私の喉が動いてしまった。


「……はい、お粗末様でした〜」
「うぅ……絶対にご馳走様でしたなんて思わない……」
「味はどうでしたか?」
「別に不味くはなかったですけど、凄く甘ったるかったです」


 うげぇ、と顔を歪ませながらそう言えば、あらあらと楽しそうに笑う先輩。こちとら全然笑えないんですけど……。
 ジトッと恨めしげに先輩を見つめていれば、何やら時計を確認したしのぶ先輩が「まだ時間はありますね……」と呟いた。


「一応、きちんと効いているか確認しましょうか」
「確認?」
「名前ったら、ここに来た大前提を忘れてしまったんですか?」


 少し呆れたように言いながら、しのぶ先輩はスっとこちらに手を伸ばしてきた。その手が辿り着いたのは私のコンプレックスであり、此処に来る羽目になった原因の────。

 むにり。触れた時、そんな効果音が付いたかもしれない。しのぶ先輩の細く白魚の様な手が私の胸部にあると気が付いた瞬間、声の無い悲鳴を上げる羽目になった。
 だが当の本人はそんな事は一切気にせずに、何かを確かめる様に動いている。


「っん、ひ……!?」
「嗚呼良かった、ちゃんと効果があるみたいですね」
「し、のぶ、せんぱ……!何、これ……!」
「先程の薬、ホルモンを促進させるというよりも、少し興奮作用を促すものなんです」
「つ、まり……?」
「まぁ簡単に言ってしまうと、今触ってもらえばホルモンも分泌されて結果的に大きくなるかもしれませんよって事ですね!」


 ではそろそろ適任がやって来る頃なので、私は此処で失礼しますね?

 うふふ、と衝撃的な台詞を吐いたしのぶ先輩が保健室から出ると同時に、今まさに入ってこようとしていた一人の男子生徒。
……何これ、もしかして全部しのぶ先輩に仕組まれてた?じゃなきゃこんなタイミングでコイツが此処に来るなんて絶対に可笑しい。しのぶ先輩はしのぶ先輩で彼の肩を叩いて意味深に頑張って下さいね〜と言って去るんだから、最後の最後まで容赦が無い。そして彼は彼で話を全く知らないのか、かけられた言葉に首を傾げている。


「しのぶ先輩に名前の体調が悪いって聞いて来たんだけど……大丈夫か?」
「大丈夫……!」
「いや顔も赤いし、息も荒いじゃん……風邪引いたの?帰れそう?」
「……っ少しだけ寝るから、善逸は先に帰って良いよ」
「はぁ!?馬鹿なのお前!体調悪い彼女放って帰る彼氏なんていないわ!!」


 その台詞、普段なら嬉しいけれど、願わくば今は一刻も早くこの場から立ち去って欲しいんだよ!先程しのぶ先輩に触れられたら一時的に感度的なものが上がったっぽいが、今はそうでもない。つまりこのまま薬が切れるまで大人しくしていれば良いということ。
 だから例え善意だとしても、今は一切触れないでほしい。じゃきゃ、またさっきみたいに変な声が出そうで怖い。

 だがその願いとは裏腹に、どんどん距離を詰めてくる私の彼氏さん。こういう時だけいつもの煩さを何処かに置いてくるの本当に卑怯じゃない?
 遂に隣に座った彼がぴとり、と悪意無き手を私の頬に当てれば、出したくなかった声が口から勝手に出て行ってしまう。


「っひゃ、ぁ」
「っへ、変な声出すなよ……!」


 声を漏らすと同時にパッと素早く手を離して、顔を赤く染める善逸。顔は逸らされて、両手は膝の上で握り拳を作っている。
……何と言うか、こういうところ本当に可愛いよなぁ。


「……おいコラ、可愛いのはお前の方だかんな」
「っぁ……!」
「だ、から!変な声出すなってばっ!!」
「そう思うなら善逸も触らないでよっ……!」


 いつまのにか本音が声に出てしまっていたらしく、ムッとした善逸が再び私の頬に触れた。そうすれば簡単に私の口から恥ずかしい感じの声が漏れでていく。


「何なのお前、熱出すとそんな風になるの……?ヤバ過ぎない……?」
「ちが、これは薬のせいで……!」
「薬?」
「しのぶ先輩が、ほぼ強制的に……」


 いや元々の原因は私にあるんたけど……と零せば、しのぶ先輩の実験趣味を知っている善逸は哀れみの目をこちらに寄こした。ああ、お前またモルモットになったのか……と。
 だがしのぶ先輩が人にそういう物を作る時は大体その人が望んだ事に沿っている事が多く、善逸もそれを知っている為、何を言ったのさとこちらを見てくる。
……見るな見るな、言える訳無いだろう。まさか君のあの発言が元凶です、だなんて。


「何、俺には言えないの?」
「そりゃ時には同性にしか言えない事情もあるのよ……」
「……俺だってお前の力になりたいのに」
「っ、善逸……」


 こてり、と私の肩に頭を預けてきた善逸は拗ねるようにそう呟いた。可愛い、可愛いけれどまた接触してきたな君。最早わざとじゃないか?って思っちゃうんだが!肩が跳ねだけで、出そうになった声をギリギリ耐えた私を褒めてほしい。
 そしてごめんね、善逸。悩みの種ね……半分は君〜〜〜〜!君自身が張本人だよ、コノヤロ〜〜〜〜!!アオイにも言った通り本人に言ったら何か負けな気がするの!それは嫌!!

 口元にエアガムテが貼られているイメージで、私は口を滑らせまいとギュッと引き結んだ。
 するとそれを見た善逸が、不服ですと言いたげに唇を尖らせる。


「話せないのは分かったけどさ、そんなに口を引き結ばなくってもよくない?」
「そこは別に好きにしてよくないですか」
「……だって、何か全身全霊で拒否られてるみたいで嫌なんだよ」
「可愛いが過ぎない?(そんな事は無いよ)」


 ムスッと拗ねるように嫌だと言ってきた彼を見て、建前の方を言う筈がポロリと本音の方がまろび出てしまった。そのお陰で善逸は更に機嫌を損ねてしまう。そして何故か自身の携帯を取り出すと、操作をし始めてしまった。

 そして暫くして、その動きが不自然に止まる。


「……は、何、お前。こんな可愛い事言ってたの?」
「え……?」
「こんな遠回りな事しないで、俺に言ってくれれば良かったのに」
「なに、何の話、」
「俺が胸の話してたの、そんなに嫌だった?」


 口元を自身の携帯で隠しながらそう問うてきた善逸の目が、スっと細まる。口元が見えないので一瞬怒っているのかと思ったが、よく見れば眉が下がっているので、怒ってはいない事は辛うじて分かった。

 というか、え?何?今善逸、何て言った?“俺が胸の話してたのそんなに嫌だった?”……そりゃあ、コンプレックスでもあったから結構嫌でしたけれども半分は諦めてたというか、彼は私で満足なのだろうかという純粋な疑問があったというか。……いや違う、今重要なのはそこじゃない。追求すべきは今何故彼は私のコンプレックスの話を出したか、だ。
 まさか、まさかとは思うが。このパツキン、私が喋らないからって直接しのぶ先輩に理由、もしくは何の薬かを聞いたんじゃなかろうな……?その場合万死だ、万死。乙女の秘密を勝手に暴いて良いと思うなよ!


「でも学校だとスリルがあり過ぎ……いや、俺なら聞こえるから大丈夫か……?」
「ちょっ、ねぇ、何か変な事考えてない!?」
「変な事って……最初にそれを望んだのはお前の方だろ」
「望んでない!私は何も望んでないよ!!」
「……嘘つき、“コレ”を育ててって頼んだんでしょ?」


 ふに、と彼の人差し指が触れた場所は、先程までしのぶ先輩が触れていた私のコンプレックス。
 突然触れられた事に私が驚いて固まっていても、善逸は気にすること無くふにふにとつつく事を止めない。そしてその指が丁度頂点を掠めた瞬間、服越しなのにビクリと体が揺れてしまう。善逸もその反応を見て正気に戻ってくれたのか、手を止めてくれた。


「きゅっ、急に何するの……!」
「かわい……今もしかして掠って感じたの?」
「っちが……!悪ふざけはもうやめて!」
「……悪ふざけ?」


 もう限界だ!とそう叫べば、言葉の一部に善逸がピクリと反応する。その表情は、先程までのからかう様な雰囲気は消え失せて、怖いくらいに真面目な顔をした善逸がそこに居た。

 そして何を言うでもなく、もう一度こちらに手を伸ばしてきたかと思えば、今度はしっかりと彼の両手に私のコンプレックスが包み込まれてしまった。やわやわと揉んで、ぐにぐにと円をかき、そして時折親指でわざとらしく頂点を掠めて。


「っん、ぁ……!ちょっ、と……!」
「俺さ、お前が好き。大好き」
「な、何?急に……」
「こんな情けない俺の事を好きになってくれて、同じ歩幅で歩いてくれる。俺には最高の彼女だとずっと思ってるよ」
「あ、ありがとう……?」
「……でも、俺以外の人に簡単に触らせようとしちゃう名前は、あんまり好きじゃない」


 その言葉と同時に、今度は意図的にコンプレックスの頂点を潰された。グリッ、と押し込まれたかと思えば、まるでマッサージするかのように円をえがく。
 しのぶ先輩の薬のおかげで強制的に反応せざる負えない私は、それでも必死に体を揺らさない様、声を出さない様に身を固くして下唇に歯を立てる。

 するとそれに気が付いたのか善逸がするりと私の唇に指を這わせ、あまつさえその指を口内へ滑り込ませてきた。そのお陰でくち、と小さな水音が私の耳にいやに響く。


「あはっ……なぁに?さっき一瞬押し込んだだけで、こんなに蕩けた顔になっちゃうの?」
「っん……ふ、ぁ……!」
「よしよし可愛いね、お前は。薬のせいとはいえ胸だけでこんなに蕩けて……本っ当に可愛い」
「は、ぇ……!?」


 ホント、こんなの作れちゃうんだからあの先輩って凄いよなぁ。今度色々と頼んでみるから、楽しみに待っててね?

 そんな恐ろしい事を若干恍惚とした表情で言いながら、スリスリと私の頬を優しく撫でていたかと思えば、いつの間にか服の中に侵入していた手が直に私の胸に触れた。下着は勿論付けていた筈なのだが、抵抗する暇も無く気が付けばずり上げられてしまっている。
 こちらの静止を一切聞かずに未だやわやわと人のコンプレックスを揉みしだく目の前の男は、満足気……というか、どんどん欲に塗れた様な顔になっていくのが分かりたくなくてもよく分かってしまった。

 そんな彼を見た私の下腹部がズン、と重くなった気がしたのは、きっと気のせいだ。


「……ね、“悪ふざけ”、だっけ?これでもまだそんな台詞が言えるもんなら言ってみろよ」
「っぁ……ぜん、」


 唇をふにふにと弄ばれながらも兎に角何か言わねばと彼の名前を呼ぼうとした言葉は、端から何も言わせない気でいた目の前の男に呑み込まれて、溶けた。
 この後、彼の家に連行されて好き勝手されたのは言うまでもない。

 ついでに言えば、その後一ヶ月間ほぼ強制的にご機嫌で楽しそうに揉まれに揉まれまくった結果、本当に少し大きくなってしまったのだから色々と心境が複雑すぎて一生忘れないと思う。







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