「……っ師範なんて、師範なんて!大っ嫌いですーっ!!」
「っおい、」


 ワッ、とみっともなく大声を上げて、泣き喚きながら私は宛もなく駆け出した。
 後ろからは師範の驚いた様な、困惑した様な声で呼び止められた気がしたが、私はそれに耳を貸さずに全力疾走でその場を離れた。

 だから、その場に残った師範がどんな顔をしていたかなんて知る由もない。


 グズグズと涙でブッサイクになった顔を手や服で擦りながらトボトボと町を歩いていれば、面白い位に周りが私を避けていった。
 これはこれで歩きやすいけれど、ちったぁ心配とかしてくれても良いのではないだろうか。うら若き乙女が号泣してんですよ?なのに何で周りから感じる視線は大体引いてんですか、可笑しいでしょ。

 くっそ、私の泣き顔はそこまで見るに堪えないの物か!?と内心擦れて居れば、前から聞き覚えのある声がした。


「あれ……?苗字さん偶然ですね、こんにちは!」
「かっ、竈門くぅ〜ん……!」
「えっ!?一体そんなに泣いて、どうしたんですか!?」


 前からやって来てこんな状態の私にも律儀に話しかけてくれた良い子は、私が彼を認識した瞬間に更に溢れ出した涙を見てワタワタと慌てた。

 ズビズビと鼻を啜りながら暫く彼に背中を撫でられ、漸く落ち着いた。私がただ幼子の様に泣く事しか出来なかった間に気が使え過ぎてしまう彼は、私を茶屋の席へと誘導した。促されるまま座れば、その隙に手際良く店員さんにお茶を注文をする。食べ物はもう少し落ち着いてから好きな物を頼みましょう!と、彼は太陽の様な笑顔を見せてくれた。
 この明るさを師範にも分けてやりたい、まぁ師範がこうなったら完璧に別人な訳なのだけれども。正直、天変地異の前触れかと思うよね。


「ゔぅっ……!ごめんねぇ、竈門君……」
「いえ!何なら俺で良ければ話を聞きますよ!」
「なんって良い子なの、君は……!」


 感動していれば、キョトンと紅い宝石の様な瞳を丸くした。
 そうか、彼にとっては当たり前の事なのか……いや、善性の塊か?この少年。今でこれなら、大人になったら良い意味で怖い。こんなの人間ホイホイじゃん、もはや一周回ってトラップじゃん。

 はぁ〜……今どきの子って凄いわぁ、と感心しながら私は彼に理由を話しだした。




 何て事は無い、きっかけはいつも通りの師範のネチネチお説教から始まったんだよ。勿論、お説教案件になる私も悪かったのだが、それでも今回は少し頭にきてしまったんだ。

 だって!師範ってば、このチンチクリンと恋柱様を比べるんだぞ!?いや引き合いに出すなよ、最初から分かりきってんですよ彼女が可愛らしくて美しい事くらい!!全隊士の常識ですよ!!!!
 ……っと話が逸れたけれど、まぁそんなこんなで師範が口を開けば甘露寺の様に〜とか、甘露寺なら〜とか、もー聞いてらんなくて。そんなに言うならもう恋柱様の所に行って、一日中眺めてくれば良いと思うんだよ。それで恋柱に邪険にされれば良い、心優しい恋柱様は絶対にそんな事しないけど。
 それで言い合いを始めたら止めどきを見失っちゃって、つい大っ嫌いなんて言っちゃったんだよ。そんな事、思ってないのに。そもそも思ってたらあの人の継子になんてならないし。
 やらかして飛び出して来たからもう継子じゃなくなるかもしれないと思ったらもう凄く怖くてさぁ、情けなくて泣いちゃった。

 そんな時に君が話しかけてくれて、今現在に至ってるかな。


「何か意外でした、お二人って喧嘩とかするんですね」
「するする、滅茶苦茶する、主に師範の独壇場が多いけど」
「でもそれってそれだけお互いをちゃんと見て気にしている関係だと思うので、俺は良いと思います!」
「そうなのかなぁ……」


 はい!と元気良く彼は頷くと、そういう言いたい事を言い合える関係は意外に信頼関係が無いと成立しないので羨ましいです!と笑った。

 信頼関係、ねぇ……。果たして私と師範の間にそんなに綺麗なものは存在しているのだろうか。勿論、私はがっつり師範を信頼尊敬しているが、師範にはそう思う理由が無い気がする。
 師範が信頼しているとすれば、御館様や同じ立場の柱の皆様位だろうか。そういえば師範は水柱様の事は嫌いらしいけど、それでも実力は絶対信頼している筈だ。

 てか何で嫌いなんだろう師範、水柱様ってそこまで師範の神経逆撫でする様な人だっけ……?どちらかと言えば静かな人という印象がある気がするけれど。
 私は余り接触した事が無いから分からないなぁ、と思いながらふと横を見れば水柱様の関係者が今はすぐ近くに居たのに気が付いた。


「竈門君、そういえば君って水柱様と結構親しいの?」
「義勇さんですか?はい、同門なんです!それに、育手の方を紹介して下さったんです」
「あぁ、前に師範経由で少し聞いた事があるけど、確かそれって例の妹さん絡みなんだっけ」
「はい、妹を人に戻す為に役立つであろう道を最初に示して、教えてくれた俺達の恩人なんです」


 ふにゃりと柔らかく笑う竈門君はその時の事を思い出しているのか、ひどく懐かしそうな顔をした。
 それはそうか、呼吸を身に付ける為の修行は一筋縄ではいかない。一日なんてあっという間に過ぎていく、それこそ最初は疲れきって日時なんて気にしている暇さえないだろう。

 自身の時もそうだった、本当に死ぬかと思った。最終選別行かずに死ぬと思ったよ、本当に。私の師匠は容赦無さ過ぎたんだよ、今でこそそのお陰で強くなれたけれども。


「鬼殺隊に居る人は皆大なり小なり色々抱えてるけど、君も結構壮絶だよねぇ」
「そう、ですか?」
「私に比べたら何倍も壮絶ですね」


 私は師匠に拾われたかと思ったら剣術を叩き込まれて、鬼殺隊に放り込まれたからさぁ。そう笑いながら言えば、彼はえっ!?と驚いた声を上げて固まった。
 だよね、驚くよね。私も師匠に話を聞いてただけで、藤襲山に行くまでぶっちゃけ信じてなかったんだから。

 まぁこの話はこんなもんで良いよ!もっと楽しい話をしよう!と言えば、彼は先程の衝撃を少し引き摺りながらも頷いた。


 それからはもう、とっても楽しい時間を過ごさせて頂いた。

 もー、竈門君ってば可愛いんだわ。これからはどんどん絡んでいこうと思う、全力で可愛がろう。いっその事ギューッと思い切り抱き締めたいのを我慢して、ワシャワシャと彼の頭を撫でくりまわした。
 竈門君はそんな風にされても、少し照れ臭そうにされるがままだった。うん、可愛い。


「はぁ〜……!こんな可愛げが師範にもあったらなぁ〜〜〜〜!」
「あ、あのっ」
「あ〜可愛い……竈門君、可愛いねぇ〜〜!」
「わっ、わわっ!あ、ありがとうございます!で、でも今は後ろを見た方が……」
「え?」


 少し焦った様な竈門君に促されて振り返れば、見覚えのあり過ぎる白黒の縦縞模様が目に飛び込んできた。
……うわぁお、師範じゃないですかやだー。偶然ですねー、どうしたんですか端正なお顔が歪みに歪みまくってますよ?そんなこっわい顔しないで下さいよ、竈門君が怖がっちゃうじゃないですかー。……あー、超逃げたい。

 スっと自然に竈門君から離れてその場から立つと、私は勢い良く足を踏み出した。が、先を読まれたのだろう。ガッ!と、素早く首根っこを掴まれた。


「俺が二度も逃がすと思うか」
「ぐえっ!……デスヨネー」
「だ、大丈夫ですか……?」
「……何故、竈門炭治郎と苗字が一緒に居るんだ」
「竈門君は私とお話してくれてたんですー、師範と違って可愛いんですから」
「その減らず口を縫い付けてやろうか」
「こっわいな!!!!」


 完璧な脅しじゃないですか!普通人にそこまで言います!?とギャイギャイ騒げば、煩いと一喝された。……くそぅ、まだ私は一応怒ってるんですよ師範。

 一文字に口を引き結んでむくれていれば、何だその顔はと言われた。
 はぁん!?この顔は生まれつきですけど何かァッ!?こちとら貴方みたいに綺麗な容姿に恵まれなかったんですよ、毎日ギリギリ普通を保ってんですよ。努力の賜物なんですよ、寧ろ褒めてほしいわ。


「師範には一生、不細工の気持ちは分からねぇですよ」
「急に何を言い出すんだ、お前は」
「何言ってるんですか!貴方はとても綺麗な方ですよ!!卑下するなんて、とんでもない!」
「竈門君ってば優し過ぎない?」


 力説してくれた彼の頭をもう一度撫でくり回せば、わわっ!と驚いた様な声が彼から漏れた。
 しかし、そんな時間は唐突に横から伸びてきた手によって強制的に終わらされてしまった。


「……何ですか、師範」
「無闇矢鱈と軽々しく異性に触れるものではないと思うがね」
「竈門君は可愛いから良いんです、というか師範には関係無いじゃないですか」
「大いにある、お前が何かをやらかせば俺の責任にも成り得るからな」
「……っ」


 淡々と涼し気な顔でそう言われ、私はグッと奥歯を噛んで押し黙った。竈門君、やっぱり私達の間には信頼なんて無いよ。だって、信頼してたら師範から今の言葉が出てくる訳無いもん。
 さっきの言い方は、完全に私が何かをやらかす前提の言い方だった。私が、師範の責任になる様な大事を起こすわけが無いのに。貴方の顔に泥を塗る位だったら、自分から離れて目の届かない所で勝手に戦って死ぬのに。

 悔しい様な、悲しい様な、そんな気持ち達がごちゃ混ぜになった感情を押し殺す様にギュウッっと拳を握った。血が出るんじゃないかって思う位に、思い切り。……嗚呼、駄目だ。また勝手に口が動く、先走ってしまう。また、心から思っていない今だけの感情の言葉が口から零れてしまう。


「……そんなに心配なら、継子を解消すれば良いじゃないですか」
「何?」
「だって師範、態々それだけの為に今此処に来たって事ですよね、私が何かをするだろうっていう疑心で」
「……だったら何だ」
「っなら!その不安の重荷を減らせば良いじゃないですか!清々するでしょう!?」


 まるで吠えるように大声で言葉をぶつければ、隣に居た竈門君は困惑していた。当たり前だ、ついさっき自分の後悔と本音を彼に話したのだから。そして肝心の師範の表情は、俯かれてしまって分からなかった。
 力強く声を張ったので、はぁっ……!と肩で息をしていれば、ギリッと未だ握られたままだった手首が強い力で締められる。
 それに思わず痛い!と声を出せば、それを聞いた師範が顔を上げる。

 その顔はとても静かだったが、異なるの色彩の瞳の奥にユラリと何かが揺れたのを私は確かに見た。


「帰るぞ」
「っ嫌、です」
「……二度は言わん」
「っだから嫌だって……!」
「あ、あの!伊黒さんの言う通り一度帰ってちゃんと話した方が良いと思います……!」
「竈門君……」


 割り込んですみません、と苦笑する彼を私達はそれぞれ見る。……ちょっと師範、睨むの止めてあげて下さいよ。

 そんな視線を微塵も気にせず、彼は立ち上がると私の耳元へ内緒話をするようにして顔を寄せてきた。えっ、何で?
 そんな疑問を抱いていたのも束の間、竈門君は師範には聞こえないであろう声の大きさで喋る。


「大丈夫です、きっと、仲直り出来ますよ」
「え、」
「……おい竈門炭治郎、狂った距離感は貴様もか」
「ムッ、狂って無いです!……それじゃあ、俺はこれで失礼しますね!」


 ハキハキとそう言うと、彼はブンブンと大きく手を振って走って行ってしまった。……行ってしまった、行ってしまわれた。今の私にとって唯一の光であり癒しであり、救いであった竈門炭治郎君が去って行ってしまった。
 彼は、師範に堂々と真正面から物を言える勇敢で貴重な一人だったというのに。

 彼が去って行って、取り残された私達の間には長い沈黙が続いている。
 暫くして師範が静かな声で行くぞと呟き、未だ握られたままの私の手首を引いた。それに私は今度は何も言わず、大人しく引かれるまま師範の後ろに着いていくのだった。


「いい加減、何か言ったらどうなんだ」
「……」


 蛇柱邸に帰って来てからずっと黙りで、尚且つ師範の顔を頑なに見ない私に、痺れを切らした彼が溜息を吐きながらそう言う。その声音は、顔を見ずとも分かる位に呆れ返っていた。
 その声を聞いて、私は余計意固地になって口を引き結んだ。それを見た師範がまた小さく溜息を吐く。

 今現在は、屋敷の一室で机を挟んでお互い正面に座っている状態だ。といっても私が師範の前で格好を崩せる訳が無いから、私は正座だけれど。
 居心地の悪さにギュッと膝の上に置いた手は、握り締めすぎて手汗が滲んでいた。


「……もう良い、お前に喋る気が無いのなら俺が勝手に喋る事にしよう」
「……」
「先に言っておくが俺はお前を継子から外すつもりは今の所、無い」
「……!」
「それと、アイツと関わるのは推奨しかねる」
「……竈門君は、超絶良い子です」
「そうか、だが俺は推奨しない」


 フン、とイラついた様に言い、吐き捨てた。……いや、暴君か??てか薄々思ってたけどこの人、竈門君の事も嫌いじゃない?何なの、水の呼吸一門は師範の地雷原かなんかなの????
 でもこれは師範の完っ璧な私情だから、私は全っ然関係無ければ従う理由も無いし!私が誰と仲良くしていようが師範には何も迷惑かけてないですし!何ですか、師範は私の父親ですか!!父親分かんないけど!!!!


「そんなに何か言いたげな顔をする位なら、さっさと言え」
「……師範は私の父親ですか」
「とうとう頭がイカれたか?」
「例えです!だって、人の人間関係に口出ししてくるし……」
「流石に容易出来ない奴も居る」
「いや逆に何で竈門君駄目なんですか!?」


 一度開いてしまった口を止められず、抗議する様に机に両手を付いて身を乗り出した。すると師範は離れろ、と体と顔を逸らす。
 もう今は師範にどんな形でも少し拒否られただけで、怒りは沸いてくるらしい。私はスクッと立ち上がり師範の隣に行くと、ずずいっと再度身を乗り出した。


「っだから、迫って来るな……!」
「ただ近寄ってるだけなのに何がそんなにご不満なんですか、貴方が私をそういう目で見てないんだから別に良いじゃないですか」
「お前なっ……」
「人間関係に口出されまくりになるのは嫌なので、今日でそれは止めてもらいます」


 それにこのままだと師範、私が恋人出来た時にも同じ事言いますよね。本当にそれは困るんですよ。

 取り敢えず勢いに任せて言ってしまおうと、ペラペラと良く回る私の口。早口で言いたい事を言い終えると、少しスッキリした気がした。今はまだそういう相手は居ないから良いけど、実際出来てこんな事を言われたら堪らないし。私は慣れてるけれど、相手の人か不憫で仕方なくなる。
 いやまぁ、そんな風に言われない様な相手を探すけれども。

 ふぅ、と謎の達成感に浸っていれば、師範から何か声が聞こえてきた気がした。


「ん?今なにか言いましたか、師範」
「……お前、今、そういう奴が居るのか?」
「そういう……?あ、あー……それなりに?」
「何だその曖昧過ぎる答えは」


 師範からの問いかけに、思わず見栄を張って出てしまっていたその言葉。師範の方へ乗り出していた身を引いて、思わず正座に戻る。
 いやだって少し驚いた顔を見てみたかったんだよ、師範の余裕を崩してみたかったんだよ!

 正直、気になる異性と言われても誰も出てこない。ぶっちゃけこの場合上げるとしたら一番に上がるのは師範だが、師範は恋柱様が好きだし、私もその二人が一緒に居て幸せな空間を見るの超好きだし。
 適当に柱の方や竈門君の名前を出しても良いのだろうが、凄く迷惑かけるだろうなぁ〜!特に水の呼吸一門!!

 というか、師範の琴線に触れない男って誰だよ!師範って誰なら認めてるの!?御館様か!?いや妻子持ちだよ!!!!……もういっその事、恋柱様にしとこうかな。それなりに交流のある彼女なら、後で誤解も解きやすいし。まぁそれにほら、これで師範も焚き付けられるかもしれないし。


「おい、何とか言え」
「…い……らさま、です……」
「聞こえん」
「こっ、恋柱様!です!!」
「……は?」


 私がそう宣言すると、まるで石の様に師範はピシリと固まった。
 あ、あー……固まってしまった。そりゃそうか、継子からの色々な暴露だもんな。何かごめんなさい、師範。あの、本当その分、協力と応援しますから許して下さい。

 内心土下座する勢いでそんな事を思っていれば、不意にグッと腕を掴まれる。それに何事!?と驚いていれば、師範が掴んだ腕を縫い付ける様にその位置に強く固定した。


「……駄目だ、例え甘露寺でも、お前は」
「し、師範……?」
「っあぁ何だと言うんだ、この不快感は!訳が分からない……っ!」
「あの、」
「だが、俺は今ハッキリと思ってしまった……!例え甘露寺でも苗字はやれない、と」


 突如雰囲気が一変した師範に、巫山戯すぎたとすぐさま謝罪をしようとすれば、師範の口から零れたその言葉。それに、今度は私が固まる番だった。
 その間にも師範は不快そうに顔を歪めて、額の辺りに手を置いて頭を抱えている。

……う、ん?えーっと、何?何だ、この状況。誰か整理してお願い。私、状況整理苦手なんだよ。今さっき師範、結構凄い事言わなかった?恋柱様に私をやれないとか、なんとか。……あっ、もしかしてあれか?子離れ出来ない親とか兄弟離れ出来ない感じ!?えっ、うっそ、可愛い所あるじゃないですか、師範ったら。


「えっ師範、可愛いですね?」
「……喧嘩を売っているのか、お前」
「何でですか!褒めたのに!!」
「お前の頭の弾け具合には、毎度頭が痛い」
「弾けてませんけど!?」


 褒めたら睨まれたし、かと思えば溜息を吐かれながら首を横に振られるし。一体なんなんだ。師範、滅茶苦茶酷い事言うしさぁっ!
 誰の頭がパッパラパーですか、こちとら今は大真面目ですよ!いつもはちょーっと面白がって適当な所はあるけども!!

 最初の問題であった喧嘩は何処へやら、いつの間にか元通り。では無いけれど、険悪な空気は無くなっていた。……というか、ある意味酷くなってる気はするけれど気付かないフリをして置いておこうか!


「……っはぁー……少し整理をする時間をくれ」
「えっ?それは全然良いですけど、一体何を整理するんです?」
「…………お前の周りの奴はそれはそれは大層苦労した事だろう、正直同情する」
「師範、本当に失礼ですよ!?」


 最終的には可哀想なものを見る目で此方を見られたので、私は耐え切れずにウガァッ!と吠えた。

 何なんですか何なんですか!私、師範のあんな顔初めて見ましたよ!全然嬉しくない発見!!……あれ、ちょっと待って。今気がついたけど、いつの間にか師範の首元に居た鏑丸までもが何かハーやれやれって顔してる気がするんだけど。蛇なのに、あんまり表情分からない蛇なのに!何で私、蛇からも呆れられてるんですかね!?
 師範の私に対する扱い本当に雑だな、と再認識させられた。貴方の継子はもう少し丁寧に扱われたいって思ってますよ。

 それにしてもお巫山戯の冗談を頃合いを見て撤回せねばなぁ、と思っていれば先に師範が口を開く。


「嗚呼、クソ、何でこんなのを……」
「何かよく分かりませんけど、馬鹿にされてるのはすごい伝わってきた」
「まぁ良い、取り敢えずお前は暫く甘露寺に近付くな」
「え、ちょっ、待って、待って下さい!先程の発言でしたら別に恋柱様に何もしませんので安心して下さいね!?」
「……はぁ、そうじゃない、俺の心の安寧の為に暫く大人しくしていろという意味だ」


 師範の心の安寧、そう言われ私は呆けた。いやもう正直、師範には悪いが全く訳が分からない。意味が分からないし、恋柱様に近付けないのは普通に困る。何よりまだ師範に言った戯れを冗談だと言ってない。
 このまま進む場合、恋柱に説明する事が必須になる。じゃないと恋柱様からどういう感情向けられるか分かったもんじゃないからね!拒否されたらされたで、それなりに悲しいからね!!

 それは普通に困るので嫌です!あっ、何なら私が行く時に師範も着いてきて良いですから!!と声を上げれば、師範が色々な感情が混ざり合った様な複雑そうな顔をしてから、また可哀想なものを見る目で私を見てきたのだった。

 解せぬ!!!!





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