追走曲・18話少し前、電車の座席について

 帝国学園スタジアムでの試合を前に、雷門イレブンは電車へ乗り込む。休日の早朝ということもあり電車はかなり空いていて、雷門イレブンが乗り込んだボックス席型の車両は無人だった。
 先に乗り込んだ皆が次々と頭上の棚にユニフォーム等が入った荷物を乗せていく。そのまま席に収まっていく面々を眺め、花音も空いている席を探した。
 マネージャーの木野、音無が隣り合って座っている席を見る。向いには響木監督が腰を下ろし、その隣は空席だ。雷門は「自家用車で行く」と話していたため、恐らく誰か座ることを想定している席ではないだろう。その席に座ろうかと歩を進める花音だが、木野と音無が着席後すぐに談笑している姿を見て、足を止めた。
 今朝目が覚めてから、形容し難い不安感が花音の頭を占めていた。試合の勝敗を気にするプレッシャーとは違う、ざわざわとした焦燥感。木野と音無の会話を前に、上手く返答出来る気がしなかった。
「柑月、座るか?」
 声を掛けられ、そちらに視線を移すと、通路の先から豪炎寺が振り返って花音を見ていた。彼は車両中程で円堂と向かい合って座り、2人の隣には2つ空席が出来ている。通路を挟んで隣のボックス席には風丸、染岡、半田、松野が座り、円堂はもっぱらそちらを向いて会話をするのが予想できた。
「うん、ありがとう。」
 花音は軽い返事をし、豪炎寺の隣に腰を下ろす。彼の隣、それも窓側であればあまり話は飛んでこないだろう。見透かしたような豪炎寺の誘いは引っかかるが、今の花音にはそれを気にしている余裕はなかった。
 豪炎寺は花音が隣に座ったのを見届けた後、特に何を話すでもなく目を伏せる。分かりやすく「会話の必要がない」というサインを確認し、花音も窓の外に視線を投げた。
 先日、学校を休んだ日のこともそうだが、どうにも豪炎寺は2歩3歩花音の先を行っているような印象を受ける。全て解られているような感覚を覚えるが、不思議と嫌な気はしなかった。尤も、任介から何か面倒を頼まれているだけなのかもしれないが。
 花音はふと息苦しさを感じて深く息を吸う。しかし、吸い込んだはずの空気が上手く肺に入っていかない感覚があり、そのことが余計に花音を焦らせた。
 窓に反射した自分と目が合って、その頼りなさに自嘲の表情を浮かべる。花音の胸中を他所に、円堂達の会話は盛り上がりを見せていた。
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