追走曲・20話以降、ただ涼の紹介

 休日の河川敷で練習を行っていた花音達は、白いタオルで汗を拭った。練習合間の休憩時間に軽い談笑を交わす。その輪の中には、涼の姿もあった。
 地区大会決勝後、雷門イレブンとのわだかまりを解消した涼は、再び花音の送迎を兼ねて時折雷門サッカー部の練習に顔を出すようになった。言葉は少ないながら、マネージャー達の手伝いもする。もはや見慣れた姿になりつつあった。
 涼は手に持っていた給水ボトルを円堂に渡す。「サンキュー」と礼を言った円堂が一口飲んで、ふと再び涼を見た。
「なあ、涼は帝国のストライカーなんだよな?やっぱりすっげえシュート技持ってるのか?」
 各々で休憩を取っていた周囲の部員達の注目が集まる。花音は静かにことの成り行きを見守った。
「まあ、それなりに。」
 表情を崩さず、淡々と涼は言う。対して円堂は嬉しそうに「俺と勝負しようぜ!」と前のめりに頼み込んだ。
 涼は少し逡巡した後、了承の返答をする。雷門イレブンが見守る中、円堂と涼のPK対決が始まった。
 パーカーにスキニージーンズ、スニーカーを身に纏ったままの涼は、ゴール前に立つ円堂と向き合ってボールを弄ぶ。トントン、と数度リフティングして、「いい?」と円堂を窺った。
「いつでもいいぜ!」
 円堂がキーパーグローブを打ち鳴らす。小気味の良い音が河川敷に響いた。
 リフティングから流れるように上へとボールを蹴った涼は、目を伏せて静かに立ち尽くす。高く飛んだボールを除いて、その場に動くものも無くしんと静まり返った。ほんの僅かな静寂だが、タッチラインの外で観ていた雷門イレブンには長い時間のように思えた。
 降りてきたボールが丁度涼の目線の高さまで来た時、涼は目を開けてボールを蹴る。吸い込まれるように涼の足へと当たったボールが、凄まじい勢いを孕んでゴールへと飛んだ。
 突然の動きに驚いた円堂が、一瞬遅れて爆裂パンチを繰り出す。しかし判断が遅れたこともあり、そのシュートを防ぎ切ることなくボールはゴールへと溢れてしまった。
「な、なんだ今の技…」
 群衆の中で染岡が呟いた。ほんの数秒だが、サッカーをしていることを忘れる静けさに、目を奪われてしまった。それは円堂も同じだった。
「威力も…すげー、すげえよ涼!」
 戦慄く両手を握り締め、円堂が口角を上げる。直前まで止まっていたとは思えないほど、そのシュートは強力だった。
「その研ぎ澄ました蹴り…まるで明鏡止水の心境ですね。」
 目金が興奮気味に言う。壁山が「そんなに強いシュートを打てるのに、なんで試合に出ないんスか?」と控えめに言って首を傾げた。
「それより、みんなでミニゲームしない?涼も入れて!」
 花音が河川敷全体に聞こえる声量で提案する。特に、ゴール前の円堂が激しく同意した。
「よーし、次こそ止めるぞ!」
 円堂の宣言に、涼もいつになく楽しげに笑う。それを見て花音も、安堵したような笑みを浮かべた。
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