交響曲・5話途中、雪合戦する話

 白恋中のグラウンドへ降り立った雷門イレブンが表情を和らげる。東京では見慣れない程厚く積もった雪は、退屈な長距離移動後の中学生には一層輝いて見えた。
 吹雪と瞳子、円堂の込み入った話を待つ間、白恋サッカー部も含めての雪合戦が始まった。鬼道の指示を聞きながら、花音は緩く握った雪玉を雷門へ投げる。
「きゃ!」
 やったわね、といつになくはしゃぐ雷門が口角を上げた。彼女の雪玉を避けながら、花音も楽しげに笑い声をこぼす。
 飛び交う雪玉と少年達の声は、宇宙人が攻めてきているだなんて感じさせないほど平和的だ。雪合戦に興じる皆の顔を見回す花音の肩に、雪玉がぶつかって弾けた。
「冷た!」
 首筋へと入り込む雪が、体温で溶けて背中を伝う。
 得意げな顔をする風丸に花音も雪玉を投げ返した。気を抜いていた彼の額へクリーンヒットし、反射的に花音が風丸へ駆け寄る。
「ご、ごめん…目とか入ってない?」
「ああ、大丈夫。見事にやり返されたな!」
 花音の問いかけに笑いながら答え、風丸は前髪に残る雪を払った。尚も心配そうな花音の背に、またも雪玉がぶつかる。
 振り向くと、したり顔の一之瀬が次の雪玉を構えていた。
「行くぞ!」
 そう言いながら一之瀬が雪玉を投げる。
 花音はそれを避けようと右へ身を翻しーー、翻そうとして、風丸の脚ともつれた。2人とも立っていられず、雪へと仰向けに倒れ込む。
 幸い柔らかな雪玉が大量に転がっていたお陰で、2人は痛みを感じることはなかった。
 見上げた空は青く澄み渡り、雪合戦で舞い上げられた粉状の雪がキラキラと日光を反射する。全身を包む雪の冷たさと幻想的な景色に花音は暫し見惚れてしまった。
「大丈夫か?」
 起き上がろうとしない花音達に一之瀬が怪訝そうに声をかける。花音は隣に倒れ込んだ風丸も動かなかったことに思い至り、返答の前にそちらを見やった。
 丁度こちらを向いた風丸は、花音と同じく隣人の様子を窺っている。自分達の行動の間抜けさに、花音は吹き出して笑い声を上げた。
「私は大丈夫、雪が綺麗で見惚れちゃってた。」
 風丸は?と隣を見る。彼は「大丈夫」とぎこちなく言って、そそくさと雪から身を起こした。
 風丸の影が、倒れたままの花音の顔に落ちる。陰った片目に合わせるように、手で日差しを作って風丸の横顔を盗み見た。座ったまま黙り込む風丸に、花音の出来心が煽られる。冷えた手を彼の首へ伸ばした。
「ひっ!」
 身を強張らせて手から逃れようと身動ぎした風丸が、再び花音の方を向く。その視線から逃れるように、花音は素早く立ち上がって逃げ出した。
 取り残された風丸に、一之瀬は肩を竦めて手を差し出す。一之瀬の助けを借りながら立ち上がった風丸は、服についた雪を払いながら口を尖らせた。
「完敗だな。」
 一之瀬の呟きに風丸が目を丸くする。目を合わせた一之瀬は素知らぬ顔をして、雪合戦へ戻って行った。
 花音の触れた首筋を掻いて、風丸は綺麗な青空を見上げた。
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