追走曲・21話あたり、何気ない会話

 休日練習を終えた雷門イレブンは、片付けや着替えを終え気怠げに帰り支度を整えていた。部活終わりとは言えまだ日も高く、部室の内外で談笑を交わす者がほとんどだ。
 木野と土門の会話に耳を傾けながら、花音は自身の携帯を開き涼のメールを確認する。『予定が押して迎えに行けないかもしれない』という淡白なメールに『みんなと帰るから、無理しなくていいよ』と返事を送った。
 送信ボタンを押したところで、「花音先輩、ちょっと良いですか?」と音無が声を掛ける。花音が顔を上げると、小さな紙袋を抱えた音無がこちらを見つめていた。
「今日って、涼さん来られます?」
「難しそうみたい。…何か用だった?」
 音無は遠慮がちに紙袋を差し出して、「この前少し助けて頂いて…」と頬を掻く。
 曰く、音無が荷物を抱え転びそうになったところを涼が助け、更にジャージの汚れをハンカチで拭ったのだという。綺麗なハンカチを汚したため「洗濯して返します!」と音無が押し切り、ちょっとした菓子を付けて持ってきたらしい。
「義理堅いねえ」
 近くで会話を聞いていた土門が口笛を吹いた。音無は照れ臭そうな顔で「高そうなハンカチだったので」と呟く。
「渡しておこうか?」
 花音が紙袋を指差して言った。音無は礼を言いながら大事そうにそれを託す。
「スマートで格好良かったです!ってお伝えください!」
 音無の勢いに、傍に居た木野がクスクスと笑った。花音は「涼、きっと喜ぶよ。」と嬉しそうに頷く。
 微笑ましそうに見ていた土門が、「そう言えば」と花音を見た。
「各務と一緒に暮らしてるんだっけ?」
 元チームメイト故か、涼を呼ぶ声が花音には幾分親しげに聞こえた。ゆっくり肯定する花音に、土門は興味深そうに続ける。
「家族仲が良いんだな。あいつ、誰かとつるんでる印象が無かったから、最初はちょっと意外だったけど。」
 土門の言葉を受けて、木野が小首を傾げた。
「涼くん、親切だけど…?」
 涼が雷門中を訪れる時は、よくマネージャーの手伝いをしている。花音もその印象が強かったので、改めて帝国学園で過ごす涼との差を指摘されると気になってしまった。
「帝国だと、違う雰囲気なの?」
 花音の問いに土門が頭を掻きながら天を仰ぐ。
「なんつーか、今より近寄り難いイメージだったんだよね。ずっと気を張ってる感じっつーか。」
 へえ、と頷く木野と音無の間で、花音は少し思索に耽る。帝国学園での生活は、涼にとって緊張感のあるものなのかもしれない。何のしがらみもない雷門中でのひとときは息抜きになるだろうか、と願いを込めた。
「サッカー部でもあんま無駄話とかしないし、家でどんな話するのか気になるくらいだよ。」
 土門が調子よく笑う。それからふと俯いて、「ま、俺も人から見たら、帝国に居た頃とはだいぶ違うのかもな。」と苦笑いした。
 花音が口を開くより早く、木野は「それだけ雷門サッカー部を気に入ってくれたなら、良かった。」と優しく言う。顔を上げる土門に、花音と音無も力強く頷いた。
「私は土門と一緒にサッカーができて、楽しいよ!」
 満面の笑みを浮かべる花音に、土門は照れからかぎこちなく微笑んだ。目を逸らした土門が、「あんまり恥ずかしいこと言うなよ」と茶化すように言う。
 木野が肩を揺らして笑う姿が、花音には眩しく、あたたかく思えた。
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