追走曲・20話始め、祝賀会後の音無との会話

「花音先輩!」
 雷雷軒での祝賀会を終え、涼を連れて帰路に着こうとしていた花音の背中に声が掛かった。振り返ると、音無がどこか申し訳なさそうに立っている。
 花音は極めて軽薄に、「なあに?」とヘラリと笑った。
「先日、お話しした件で…疑ったりして、すみませんでした。」
 しょんぼりと肩を縮こませ言う音無に、花音は「そんな」と間をおかず返答する。
「気にしないで。私こそ、2人のことよく知らないで勝手なこと言ってごめんね。その、兄妹だったなんて。」
 びっくりしちゃった、とオーバーに目を丸くして、花音が音無を窺う。戯けた様子に音無が笑みを溢し、花音は内心胸を撫で下ろした。
「でも、本当に…2人が仲直りできて良かった。」
 慈しむような花音の声に、音無もはにかみながら呟く。
「そうですね、随分遠回りしちゃいましたけど…」
 いつになく切ない表情の音無に、花音は思わず彼女の手を取った。反射的に驚いた顔をする音無に、花音は自身も驚いた様子で手を放す。
「ごめん、…なんか春ちゃんって、妹って感じが強くて。ついつい守ってあげたくなっちゃうって言うか…。」
 誤魔化すように笑って、花音は頬を掻く。妹を持ったことがない花音には想像に過ぎないが、きっと妹は保護欲が駆り立てられるのだろう。そんなことを思うと不意に頭痛が走り、ひっそりと眉を顰めた。大きく息をして、痛みを逃す。
「お嬢」
 少し離れて様子を見ていた涼が寄ってきて声を掛けた。音無と花音の視線を集め、涼が言う。
「迎えの車がじき着きます。」
 言いながら花音の背を優しく支える。隠したつもりの痛みが涼には筒抜けのようで、花音はもどかしく思った。
「引き留めてすみません。それではまた、練習で。」
 音無がそう言って軽く頭を下げる。花音も「またね」と片腕を上げて、かろうじて普通の挨拶を返した。
 音無が去るのを待って、涼は花音をすぐそばのベンチへ座らせる。花音は「ありがとう」と薄く微笑んで、素直にそれに従った。
「最近たまにあるの。…急に頭が痛くなっちゃって…すぐ治るんだけど。」
 花音の言葉を涼は黙って聞いていた。以前病院で倒れた事もあったが、頭痛について涼に説明するのは初めてだった。
 少し考える素振りを見せる涼に、花音は慌てて「サッカーは関係ないと思う!」と顔を上げる。その勢いに一瞬驚いた涼だったが、目を細めて「そうですか」と事務的に返答した。
「無理はなさらないでください。…決して。」
 噛み砕くようにゆっくりと言い、涼は道に停まった送迎車に目をやる。花音は何かを言いかけて、けれどそっと唇を閉じた。
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