追走曲・28話以降、涼の紹介2

 休日練習を終えた雷門イレブンの元へ、タイミングを見計らったように涼がやってきた。花音が嬉しそうに声をかけ、走り寄る。ここのところ涼の姿を見ることの無かった雷門サッカー部の面々も、つられてそちらに視線を送った。
 白いカッターシャツにダボついたジャケット、黒いスキニーパンツを履いた涼は、駆け寄った花音と短く言葉を交わす。その後2人は会話を続けながら、並んでこちらへと近寄ってきた。
「彼は?」
 皆に倣って涼を見ていた一之瀬が、そばに居た鬼道に問う。鬼道は簡潔に、「各務涼。俺や土門が元居た帝国のサッカー部員で、花音のいとこだ。」と説明した。
 涼と並んで皆の元へ歩いてきた花音がそれに気づき、改まって「そっか、かずくんと涼は初対面だね。」と頷く。一之瀬を背に涼へ向いた花音が、「こちら」と右手をあげて一之瀬を指した。
「先日転入してきた、一之瀬一哉くん。アメリカのジュニアリーグで活躍したプレイヤーで、お兄ちゃんとも一緒にサッカーしてたんだ。」
 よろしく、と爽やかに微笑んだ一之瀬に対し、涼が「ふうん」と目を細める。
「どうも」
 形式的にそう言った涼の声はいつもより少しだけ低く、花音は心の中で首を傾げた。けれど、それは余りに些細な差だったため、気付いたものは多くないらしい。円堂がいつもの調子で「最近忙しかったのか?」と涼に問いかけ、涼はいつもの調子で「少しね、」と曖昧な返事をした。
「今日もあいつらのところか?」
 鬼道が申し訳なさそうに涼へ言う。涼は少し鬼道の顔を見つめ、小さく頷いた。
 不可解そうな円堂達を横目に、涼が短く息を吐く。言いにくそうに小声で呟いた。
「源田達…入院している帝国イレブンのところに、様子を見にね。」
 それを耳にした雷門サッカー部が表情を暗くする。
 先日、世宇子中との試合で大怪我を負った帝国イレブンは、その多くが入院、或いは自宅での療養を余儀なくされていた。涼が彼等の見舞いに足繁く通い、授業を受けられない彼等の為に勉強の進みを見ていることを知っていた花音は、ことの成り行きを見守って口を開く。
「せっかく来たんだし、涼も身体を動かしていかない?」
 花音の思惑通り、円堂が一際嬉しそうに同意した。彼の言葉に流されるように、涼がボディバッグを下ろしてグラウンドへと降りる。花音はそれを眺めながら、同じくまだグラウンドへ降りていなかった鬼道に近寄った。
「私、たまに涼の反応が分からない時が有るんだかど…」
 言いながら、花音は涼を目で追ったまま鬼道の隣に立つ。鬼道も涼を見たまま、少し黙って腕を組んだ。
 鬼道も、一之瀬に対しての涼の反応が冷たく感じていた。そして彼は憶測に過ぎないが、その理由に察しがついていた。
「各務は…元々、政先輩に憧れて帝国に来たんだ。だから対抗心のようなものを感じたのかもしれない。」
 鬼道の言葉を耳に、花音は一瞬驚いて鬼道を見る。そしてゆっくりと目線をグラウンドへと戻し、「そっか」と小さな声で呟いた。
「有人は涼のこと、なんでも知ってるね。」
 花音が少しだけ羨ましそうに笑う。
 今度は鬼道が花音の表情を盗み見て、何か言葉を発しようと口を開いた。けれど、それは円堂の声にかき消される。
「鬼道!花音!お前らも早く来いよ!」
 手を振る円堂に花音が元気に返事をする。
 駆け出す花音の背を見送って、鬼道もグラウンドへと続く芝を降りた。
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