19話 1/3

「涼!」
 叫びながら扉を開け、花音は勢いよく部屋へと飛び込んだ。静かなモニタールームで、花音の荒い息だけが聞こえる。
 大きなデスクの前、回転椅子に影山が座っていた。デスクを挟んで反対側に、涼が向かい合うように立っている。花音の入室に顔だけ振り返った涼は、渋い表情をしていた。
「どうして…」
 涼がそう小さく溢した時、鬼道を筆頭に円堂達が入ってくる。一同は部屋の中程に立つ花音の背を見て、その奥に居る涼と影山を見た。
 涼の問いかけに、花音が寂しげに答える。
「当たり前だよ。涼のこと、信じてるの。」
 言葉に詰まる涼に、花音は「それに…」と続ける。
「涼が先に助けてくれたんでしょ。」
 それだけ言って、花音は目線を影山へと向けた。
「影山さん、あなたの言う因縁って何なんですか?…あんな形でなきゃ決着のつけられないものなんですか!?」
 因縁、の言葉に影山が鼻で笑う。口の両端を上げながら、「言っている意味が分からないな」と愉快そうに言った。その言葉に鬼道が「とぼけるな!」と叫ぶ。凛とした怒りに、それでも影山は怯まなかった。
「証拠はあるのか?」
 腕を組み、背もたれに身を預けて余裕そうに一同を見下ろす。何も言い返せない少年達に代わって、男性の声が響いた。
「あるぜ!そいつが証拠だ!」
 部屋に入ってきた刑事・鬼瓦が、影山のデスクにボルトの入った袋を放り投げる。それは試合前にグラウンドへ落ちてきたボルトで、影山の命令でボルトを緩めたという工事関係者の証言もあった。
「俺はもうあなたの下では戦いません!」
 押し黙る影山に鬼道が叫び、帝国学園の選手達が同意する。影山は再び嫌味ったらしく笑いながら「勝手にするが良い」と言い捨てた。
「私にももうお前達など必要ない。」
 影山の言葉に涼は眉を顰める。
 鬼瓦は影山に近寄り、同行を求めた。大人しく立ち上がる影山が部屋を出ていくまで、皆が固唾を飲んで見つめる。
 花音の横を通り抜けた時、影山が不意に立ち止まり、花音に言った。
「ところで…お兄さんは元気かな?」
「影山ァ!!!」
 涼が一際大きな声で叫んだ。部屋中に反響したそれは、花音が今まで聞いたこともないほど怒気の込められた声だった。
「行くぞ!」
 皆が唖然とする中、鬼瓦の有無を言わせぬ低い声が響く。影山は再び歩き始めた。

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