17話 1/2

 花音の視線の先には、河川敷のゴール前で睨み合う円堂と響木の姿があった。円堂はゴールを背負い、ボールを足元で軽快に弄ぶ響木と対峙している。監督を掛けた1対1のPK3本勝負が、始まろうとしていた。
 円堂は、3本とも守り切ることで監督になってもらうという約束を取り付けた。居合わせた花音は、流石に腰エプロンをして長靴を履いた響木相手にならその条件でも余裕があると判断したが、それは間違いだったと認めざるを得ない。響木の動きはそこいらの元少年サッカー選手上がりとは違い、当時より大きな体を持ってしても機敏だ。それでいて体躯が育った現在の方が力強いのだから、円堂も外に弾き出すので精一杯の様子だった。
 なんとか2回守り切って、残るはラスト1本だ。緊張が走る場面でも、円堂は楽しげに笑っている。
 響木が今までより大きく振りかぶって、ものすごい勢いのシュートを蹴り出した。ノーマルシュートとは思えない威力で、思わず円堂もゴッドハンドで応戦する。
 シュートを止められたのを見た響木は、声を上げて笑った。
「こいつは驚いた、大介さんがピッチに帰ってきやがった!」
 円堂の立つゴールへ近づきながら、響木が言う。3本守り切った円堂と負けたのに楽しそうな響木を見て安堵した花音は、思わず止めていた息を吐いた。ゴール前で会話をする2人を眺め、目を細める。
 ふと、朝には有った心のもやが花音の心に無くなっていることに気づいた。涼の誤解を解かなくてはと思う気持ちはあるが、どちらにしても帝国と戦って彼等の高潔さを証明しなくてはならない。そのうえで言葉にしないと、伝わらないと思った。
「戦って、勝つ…。」
 花音は口の中で小さく呟く。その言葉は声にすると、熱く胸を躍らせた。

 円堂と新監督・響木と別れた花音は、まだ帰るには早すぎるため特に目的もなく街を歩き続けた。気の向くままに歩いた結果、病院にほど近い場所まで来ていたらしい。花音は思わず足を止める。
「花音!」
 丁度、どこからか呼び声が聞こえた。花音が声のする方に視線を送ると、横断歩道を挟んで向こうに豪炎寺を見つける。横断歩道の信号が青へと変わり、豪炎寺が小走りに花音に寄ってきた。
「…結局、1日休んだんだな。」
「そうだね。明日からはちゃんとするよ。」
 言いながら、花音は豪炎寺の荷物を盗み見る。学校指定のカバンと学ランを着込み、右手にケータイを握り締めた彼は練習をせずに下校途中といったところだろう。
「今日って練習休みなの?さっき円堂も見かけたけど…。」
「全体練習はいつも通りやってるさ。円堂は監督を捕まえてくるって出て行ったらしいが。」
「てことは豪炎寺もサボり?」
「お前には言われたくない。」
 やれやれとでも言いたげに豪炎寺が肩を落とす。花音が冗談めかして「割と悪い子なんだね」と言うと「そっくりそのまま返す。」と目を伏せた。
 心配して探しに来てくれたのか、はたまた任介に無理矢理頼まれたのかは分からないが、花音は豪炎寺が自分のために練習時間を犠牲にしてくれたことをなんとなく理解した。申し訳なさと、ほんの少し嬉しさを感じて「ありがとね」と小さく伝える。豪炎寺はそれには答えず、「どこに行くつもりだったんだ?」と花音の行く先に目をやった。
 花音は行く宛を考えず彷徨っていたことを正直に伝える。豪炎寺がまたも呆れた顔をして、「それなら」と微笑みがちに提案した。
「夕香に会いに行くか?」
 花音は大きく頷いて、どちらともなく歩き始めた。

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