15話 1/2

 円堂と木野が、飛び出して行った土門を追いかけて出て行った。残ったサッカー部は、雷門の提案で今日は解散する事になった。冬海のことも、土門のことも、涼のことも、各々の中でゆっくり考えた方が良いという雷門の言葉に反対意見は出なかった。
 花音は1人グラウンドのベンチに座ったまま、心ここに在らずという表情をしている。養子、という涼の言葉に疑問が湧いた部員達に、雷門が控えめに花音の家庭環境について説明をした。その間も花音は上の空で、黙ったままだった。
 ユニフォームを着替え始めた一同を他所に、雷門と豪炎寺が円堂達を追って出て行った。2人は花音を遠巻きに窺い心配そうな顔をしたが、掛ける言葉を見つけられない様子だった。
 花音の隣に、音無が座る。突然のことに花音が彼女の方を見ると、音無は固い表情をしていた。音無は少し俯き、意を決したように顔を上げて言葉を紡ぎ始める。
「…私、さっき先輩が帝国のキャプテンと話しているのを見たんです。あの時、何を話していたんですか?」
 言いながら花音の目を鋭い眼差しで見つめた。言葉を詰まらせる花音に、音無は泣きそうな顔で続ける。
「涼さんはああ言ったけど、本当はあの人の仲間なんじゃないですか?」
 いつも見る元気で人当たりの良い彼女とは違う姿に、花音はかなり動揺していた。酷く切実な様子の音無は、手負の獣のような繊細さを感じさせる。
「春ちゃん…」
 花音が膝に乗せていた手をギュッと握った。そして意を決したように哀しげに笑う。花音自身、かなり無理をした決意だった。
「私、信じてみるよ。」
 音無に向けていた視線をグラウンドへと移す。音無はその様子を見逃さないよう、じっと花音を見たままだ。
「涼の言葉…全部嘘なの。帝国のことはよくわからないけど、たぶん土門のことも…。」
 小刻みに震える拳から、花音が相当な力で手を握っていることが分かる。音無はその姿を見て、信じきれない自分に歯痒さを感じていた。
「あの場で土門の…土門と私の立場が危なくなるだろうと思って、あんな嘘、ついたんだと思う。」
 花音は「悪者ぶって自己犠牲なんて」とため息をついて肩を落とす。同時に拳を握る手も脱力し、音無の方へ振り返った。その顔はやはり、どこか哀しげだ。
「私のこと疑ってくれてもいいよ。鬼道くんとは…知り合いなの。さっきは見掛けたから、『試合楽しみにしてるね』って伝えただけ。」
 花音は困ったような笑い顔を浮かべ、「でも」と続けた。
「でも…春ちゃんと鬼道くんの間に何があったか知らないけど、私、鬼道くんは悪い人じゃない気がしたんだ。…だから鬼道くんも涼も、信じてみようと思う。」
 その言葉に、音無は動揺から瞳を揺らす。やはり2人に何か関係があるのだ、と確信した花音は、言葉を選んで笑いかける。
「春ちゃんはどう?…一緒に、信じてみない?」
 花音の問いかけに、音無は黙ったままだった。

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