14話 1/2

 フットボールフロンティア地区予選の決勝を間近に控え、雷門中サッカー部の気合は充分だ。対戦相手である帝国学園は昨年度優勝チームなのもあり、予選の結果を問わず全国大会へ駒を進められるらしい。自動的に雷門中もまた、この試合の結果を問わず全国大会出場が決まっている。
 花音は、一刻も早く部活動に参加したい一心で更に加速した。6時限目の終わりに用事を申しつけられてしまい、遅刻を余儀なくされている。一応、クラスメイトの風丸に言伝を頼んだが、花音自身、ブランクがあるため部活動だけでは練習不足なのも感じていた。
 制服のスカートを気にしつつ全速力で部室へと向かう花音の視界に、見覚えのある人影が映った。
「あ!」
 花音が声を出し、一度足を止める。私服だろうか、赤色の上着を身につけた鬼道の背後に近づいた。花音は「鬼道くん!」とその背に元気よく声を掛ける。鬼道の背は、心なしか以前見た時よりも小さく見えた。
「柑月…」
 駆け寄る花音に気づいた鬼道が振り返り、微妙な表情を浮かべる。彼が身に着けるゴーグルのせいで瞳は窺いにくいが、歪められた眉からは哀しみが見て取れた。
「どうしたの?雷門中に用事?」
 花音がこちらを見たまま動かない鬼道に問いかける。鬼道はそれに答えず、掠れるような低い声でため息混じりに言った。
「…雷門中、だったんだな。」
 責めているというより、呆れているのだろう。花音は肯定しつつ、「…言ってなかったっけ?」と首を傾げた。鬼道も「聞いていない。」とだけ言い切って、2人の会話が途切れる。
 グラウンドの方から、円堂の声が聞こえた。
 思い詰めた表情のまま鬼道は一度口を開き、何も言わぬまま噤んだ。花音は黙ったままの鬼道に笑いかける。
「…私、楽しみにしてるね。決勝。」
 噛み砕くようにゆっくり放ったその言葉に、鬼道は驚いた顔をした。
「たから…鬼道くんもサッカーを楽しもうよ。」
 花音の声に、鬼道は俯きつつ呟くように言う。
「…柑月は帝国が…俺が憎くないのか?」
 花音は言葉の意味を理解できずに聞き返した。鬼道は目を逸らすように、花音に背を向ける。立ち止まったまま暫し虚空を見つめて、言った。
「俺は楽しむためじゃなく…目的の為にサッカーをしている。」
 歩き出した鬼道の、草を踏みしめる音だけが花音の耳に残った。

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