08話 1/4

 部活帰り、久しぶりの友人との下校に花音の気持ちは浮き足立っていた。昨日、散々任介に言って聞かせたので、晴れて今日から徒歩で下校できるようになった。これまで友人に声を掛けられても「家族が送迎してくれる」なんてなんとなく恥ずかしくて答えを濁してきたが、これからはそんな必要もない。登校は待たせる必要もなため今まで通り送迎されることになったが、それでも花音にとっては大きな変化だった。
 花音は去年の今頃まで当たり前だったはずの下校風景に、一種の懐かしさを感じて目を伏せる。その横で風丸が、困ったように口を開いた。
「フットボールフロンティアが始まるってのに、新必殺技のひの字も見つからないなんて…。」
 練習終わりの円堂、豪炎寺、風丸に声を掛けられ、花音は4人で歩いて帰ることとなった。聞けば、円堂と風丸は幼馴染らしい。親しげな様子が気になっていた花音は、なんとなくその繋がりに納得した。
 元々クラスメイトとして面識のあった風丸だが、以前は陸上部のエースとして活躍していた。先日の帝国学園との練習試合の際に円堂に声を掛けられ、助っ人として参加するはずがいつの間にかサッカー部員として馴染んだようだ。今も、今後の試合に向けてこの場の誰より心配そうな顔をしている。
「諦めるなよ。」
「諦めてるわけじゃないよ。」
 円堂と風丸の掛け合いに2人は足を止めた。つられて豪炎寺と花音も足を止める。
「必殺技が見つかったとしても、身につけるまでは練習が必要だ。」
 豪炎寺が脳天気に見える円堂を諌めるように言った。対して円堂は「なんとかなるさ」と軽く答え、グゥと景気良く腹を鳴らせた。
「よーし、早速雷雷軒で作戦会議だ!」
高らかに宣言して、円堂は颯爽と先を進み始めた。

 円堂の案内の元、花音達は雷雷軒という小さなラーメン屋へと辿り着いた。入店すると、黒っぽい服装の店主のおじさんの他、客足も疎らな静かな店内だった。
 学校帰りに寄り道をして店に入るなんて初めてな花音は、少し落ち着かない様子で円堂お勧めのラーメンを注文する。程なくしてカウンターにラーメンが並べられ、4人並んで食べ始めた。
 ラーメンを食べながらも、心配そうな風丸が口を開く。
「野生中相手に新必殺技も無しにどうやって戦うんだよ?」
 その問いに答えたのはまたしても円堂だった。
「俺はみんなを信じる。」
 その返事に風丸は「はぁ?」と声をあげる。しかし円堂はそれを気にする様子もなく、続けた。
「たとえ新必殺技が無くたって、やってくれるよ。」
 円堂は明るく笑いながら、室内にしてはやや大きな声で言う。
「思い出せよ、俺達イナズマイレブンになるんだぜ。」
「イナズマイレブン?」
 聞き慣れない単語に思わず花音が聞き返した。「ああ、」と円堂が花音を見て、嬉しそうに説明する。
「昨日花音が居ない間に古株さんから聞いたんだ。50年前の、伝説の雷門サッカー部について。」
 ふうん、と花音が相槌を打つ。豪炎寺が「イナズマイレブンか…」と小さな声で呟いた。
 前を向いた円堂がうっとりした調子で「じいちゃん達、どんな必殺技持ってたんだろ…知りたいなあ…」と空を見る。その言葉に反応したのは風丸でも豪炎寺でも勿論花音でもなく、雷雷軒のおじさんだった。
「イナズマイレブンの秘伝書がある。」
 おじさんはキャベツの繊切りをする手を止めず、サラリと言った。その余りの自然さに一度聞き流したが、少し間を置いて円堂と風丸が立ち上がって声を合わせる。
「「えー!秘伝書だって!?」」
 雷雷軒のおじさんのこの言葉によって、イナズマイレブンの秘伝書探しが始まった。

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