04話 1/2

 ついに、雷門イレブン対帝国イレブンの練習試合が目と鼻の先まで近づいてきた。観戦は許してもらえないだろうと思っていた花音だが、予想通り、涼がふと思い出したように言った。
「お嬢、今度の休日は出掛けましょう。」
 涼だって帝国サッカー部なのだから、わざわざ花音のために休みを取ったのだろう。そうまでして守ろうとしてくれているいとこに、花音はノーとは言えなかった。
「わかった、今週末の予定あけておくね。」

 試合当日。なんとか11人集まったと話してくれた木野の様子を思い出しながら、花音は円堂に思いを馳せる。ありあわせのチームで戦えるほど、帝国学園は甘くはないだろう。完全に上の空の花音に、涼がソフトクリームを差し出した。
「お嬢」
 花音が練習試合を気にしていることは涼にもわかっていた。もとより、花音が人よりもサッカーに関心があることは知っている。しかし「よりにもよって」帝国学園との練習試合なんて、涼は絶対に花音に見せたくなかった。
「ありがと」
 差し出されたソフトクリームを受け取って、花音はにっこりと笑った。その仕草を眺めながら、涼も思案する。
 涼もまた、試合が気になって仕方なかった。花音を連れ出すというミッションをクリアした今、今から雷門中へ向かえば試合終了までには間に合うのではないか。涼は脳内で移動時間を計算する。走ればまだ間に合いそうだ。時間的に試合は開始しているから、花音も観戦は諦めるだろう。
「お嬢、あの。」
 ソフトクリームを味わう花音に、涼は目を逸らしながら「少し用事を思い出した」と伝えた。
「なので…」
 言い淀む涼に、花音は微笑みながら「今日は解散にしとこっか?」と問うた。少しすまなさそうに涼が頷く。そうして席を立った涼に、花音は手を振りながら見送る。その背が見えなくなった頃、携帯電話を取り出して任介へと連絡を取った。
 今朝、花音が家を出るときに任介はこっそりと「近くで待機してるから、1人になれたら連絡してくれ」と伝えていた。

 涼が雷門中に着いた頃には、試合は終わった後だった。どうやら帝国イレブンの猛攻に雷門イレブンはもはや立てる状態ではないらしい。しかし圧倒的な点差がありながら、試合中雷門イレブンは帝国イレブンから1点をもぎ取ったようだった。
「へえ」
 これには涼も、素直に驚いた表情を見せる。偵察に来た価値は十分にあったのだろう。
 涼は物陰に隠れながら、仰々しく退場していく帝国学園の生徒達を眺める。きっとあの総帥の事だ、涼がここにいる事は気付いているのだろう。だが今更合流する気にもなれず、結局涼は傍観する。
 権力を振り翳すような帝国学園のやり方は、涼自身あまり好きではなかった。総帥の指示で無理が通ってしまうのも苦々しい。キャプテンである鬼道は盲目的に崇拝しているため気づいてないのかもしれないが、涼が知るだけで何度も汚い手段を取っている。それも、知ってもサッカー部を辞めないことまで見越して、わざと見せつけられているようだった。
 涼は睨むように帝国イレブンを見送って、それからそっと目を伏せた。

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