01話 1/3

 校門の前にバイクが止まっていた。それは花音がよく見た事のあるバイクで、真っ黒な塗装が日光に反射して少し綺麗だ。車体の側にはフルフェイスのヘルメットを被った男性がバイクに寄りかかるようにして立っている。
 他人の目もあるというのに、校門前にデカデカと停車して運転手は恥ずかしくないのだろうか。花音は喉まで出かかった溜息を必死に堪え、他生徒に紛れてバイクの横を通り過ぎた。
 学校を出てすぐの曲がり角を右へ入り、その後すぐの細い路地へと身を隠す。すぐに先程のバイクが花音の目の前で停まった。運転手がバイクに跨がったまま、ヘルメットを取る。
 切長の目に少し長めのグレイッシュな髪が印象的な花音の兄、任介だ。
「任にい、目立つ所に停めないでよ。」
 先程飲み込んだ溜息とともに花音が訴える。生徒会長である雷門にも先日苦言を呈されたばかりだ。
 しかし、当の任介はその言葉に特に反応するでもなく、花音の鞄を受け取りバイクのリアボックスに入れる。それから「今日は6時に帰るぞ。時間になったら電話を掛ける。河川敷でいいんだよな?」と花音に問うた。花音は2度頷き、サブバッグに入れていた着替えと携帯の電池残量を確認する。ジャージ一式とキャスケット、替えの靴が揃った着替えは、さながら花音の変身セットだ。
「怪我するなよ」
 任介が心配そうな顔で言う。「大丈夫だよ」と苦笑し、花音は過保護な兄に手を振った。

 花音と任介は、旧知の仲ではあるが血の繋がった兄妹ではない。2人が兄妹として暮らし始めたのは、1年ほど前のことだ。
 花音の両親が乗った車は、2人の目の前で大きなトラックに突っ込まれ、そのまま帰らぬ人となった。彼女の親戚は皆遠方でそれぞれに家庭も事情もあったため、任介が親に掛け合い柑月家の養子として迎えられることとなった。といっても任介の母親は幼い頃に病死しており、父親は会社社長として日々忙しく世界を渡り歩いているため、基本的に会う機会はない。花音にとって、もともと兄のような存在だった任介と戸籍上兄妹になったところで、特に何か変わるような印象は受けなかった。
 両親の死は当時のクラスメイトなどには伝わっているが、超マンモス校として知れられる雷門中では同学年の生徒を把握しきることは難しい。学年が上がり、2年生となった今ではクラスメイトのほとんどが花音の旧姓すら知らないような状況だ。他人に心配を掛けるのがあまり得意ではない花音としてはむしろ好都合だった。

 河川敷には地元のキッズチーム・KFCのメンバーが練習をしているようだった。花音が土手を降り始めると、すぐに気づいて「あ!お姉ちゃんだ!」と元気よく集まってきた。
「みんな、久しぶり」
 花音が全員の顔を見回すと、チームを代表してマコが「久しぶり!」と返事をした。
「最近来なかったけど、どうしたの?」
 首を傾げるマコに「ちょっと忙しくて」と曖昧に花音は笑う。
「みんなは練習、どう?」
 花音が尋ねた。
「最近、円堂って人が一緒に練習しててね、みんな強くなったんだ!」
 胸を張る子供達は自信に満ち溢れた表情をしていて、花音には確かに強くなったように見える。「じゃあお手並み拝見しようかな」と花音が笑うと、子供達は満面の笑顔で頷いた。

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