33話 1/3
世宇子イレブンの給水を不審に思ったマネージャー陣が、鬼瓦と協力してその尻尾を掴むことに成功したらしい。‘神のアクア’と呼ばれる体力増強のドリンクを用いて、彼等は驚異的なパワーを生み出していた。
「許せない!サッカーを…俺達の大好きなサッカーをどこまで汚せば気が済むんだ!」
円堂が怒気を孕んだ声を出しながら、スタジアム上部、影山が居るであろう場所を睨みつける。花音もそれに倣って目線を上げた。
湧き上がる怒りを感じて目を閉じ、大きく息を吐く。落ち着け、落ち着けと自身に繰り返して、花音は目を開けた。
「大丈夫」
言い聞かせるように花音は小さく声に出す。それから鬼道を振り返った。
「有人、ちょっと。」
試合中と比べ大分落ち着いた花音の声に鬼道が「どうした?」と低く問いかける。花音は顎に手を当て、思い返すように遠い目をしてグラウンドに向いた。
「前半、戦ってみて…シュートチャンスを作る隙が世宇子には無かったと思う。正直、ゴール前に近寄ることすら出来なかった。」
花音の言葉に鬼道が頷く。圧倒的な実力差を前に、後半は消耗した体力でどこまでやれるかと不安が残る。表情を曇らせる鬼道とは対照的に、花音は少し口角を上げて彼を見た。
「だから、近寄る前にシュートを打てば良いんじゃないかと思って。」
花音の言葉に鬼道は首を傾げる。遠方からのシュートでは威力が落ち、容易に阻まれてしまうのではという疑念が湧いた。
しかし花音は、それを見越して言葉を続ける。
「シュートを重ねちゃえば良いんじゃないかな。ドラゴントルネードみたいに…ええと、つまり、相手ゴール前の味方にシュートを打って、ダメ押しのシュート技を重ねてもらうの。」
勿論、シュートモーションに入るための余裕や、前方の味方へのラインの意識など、言葉で言う以上に難しい方法だということは花音にも分かっていた。けれど相手GKの強力なキャッチ技に打ち勝つには、DFの妨害を受けず全力でゴールを奪いにいく姿勢が雷門イレブンには必要だった。
鬼道が神妙な面持ちで頷く。決意した様子の彼に、花音はいつものように笑った。
「大丈夫、勝てる。私達‘イナズマイレブン’になるんだもん。」
囁くように、彼女は言った。
「円堂くん。」
切羽詰まった雷門の声に、花音は微笑みを解いて振り返る。黙って円堂に向く雷門の背を見つめた。花音から雷門の表情は窺えないが、彼女と向かい合う円堂はふっと笑った。
「大丈夫!俺はやれる。やらなきゃならない。俺達は、世宇子のサッカーが間違っていることを示さないといけないんだ。」
存外明るい円堂の声に、花音は無意識に頷いていた。
押し黙っていた響木が、皆の背を押すように叫ぶ。
「よし、行け!」
歯切れの良い「はい!」という返事を残し、雷門イレブンがコートへと散った。