19話 2/3

「あんな人に従っていたなんて…」
 呟いた源田が悔しさを露わにする。鬼道は同じく悔しさを滲ませながら、円堂達へと向き直った。
「円堂、柑月、響木監督…大変申し訳ありませんでした。総帥があんな事をしたんです、試合をする資格はありません。…俺達の負けです。」
 鬼道が頭を下げる。円堂が「何言ってるんだよ!」と慌てるが、響木は円堂の肩に手を置きながら言った。
「円堂、判断はお前に任せる。」
「監督…」
 円堂と目が合った花音は、同意の意を込めて頷く。円堂はすぐに答えを出し、ニッと笑った。
「やるに決まってるだろ!俺達はサッカーをしに来たんだ!帝国学園とな!」
 円堂の明るい笑顔に鬼道の緊張もほぐれ、小さく感謝の言葉を口にする。そして円堂は、もう一度花音を見た。
「それより花音、涼が先に助けてくれたっていうのは?」
 それまで事の成り行きを静かに見つめていた涼が、目を逸らす。花音は少し口角を上げて涼に視線を送った。
「あの時…なっちゃんが冬海先生を追い詰めた時、涼は私が疑われないようにあんなことを言ったの。…スパイなんて、してなかったけど。」
 スパイという単語に帝国の選手達が身を硬くする。花音は気にする様子もなく、慈しむような目をした。
「じゃあなんで、涼はあの時否定しなかったんだ?」
 円堂の疑問に花音は少しだけ円堂を見て、また涼に向く。
「私の臆測なんだけど…土門1人に辛い思いをさせたくなかったんじゃないかな。」
 ふふ、と笑った花音に、涼が小さく否定した。しかしそれを聞き流し、花音は続ける。
「でもさ、私はこんなに涼のこと信じてるよ。…だから、涼も私のこと信じていいよ。」
 今度は涼は何も言わなかった。暫しの静寂の後、また花音が口を開く。
「…グラウンドに戻ろっか。」
 それは花音の、今までで1番儚くも優しい声だった。

 遂に始まった試合にも関わらず、円堂は心ここに在らずといった様子だ。シュートを弾き損ない、あわや1点目が決まるところだった。幸いにもボールはゴールポストにぶつかり、失点を免れる。キャプテンのらしくない失態に雷門イレブンも落ち着かない様子だ。
 その後の健闘も虚しく、前半戦、円堂に調子が戻ることなく先制点を許してしまった。
「どうしたんだ、円堂?」
「俺にも分からない…」
 心配そうな風丸の問いに、落ち込んだ様子の円堂が答える。自分を惹きつけたサッカーへの情熱が、輝きが無い、と雷門が発破をかけた。しかし円堂は俯いたまま何も言わない。
「影山に何か言われたのか」
 響木の言葉に、静かに首を振った。その姿に、皆に混ざって円堂を見つめる木野が一際心配そうな顔をする。
 彼女は円堂が、鬼道と音無のことを考えて試合に集中できていないのだと知っていた。負けてほしくない気持ちと、鬼道の悲願達成を想う気持ちとで木野自身も掛ける言葉を悩ませる。
 花音は響木を見た。試合前、本調子でないことを見抜かれてメンバーから外されていた花音だったが、決勝戦に揺れる一同を見ていてそんな自分が情けなくなったのだ。後半から出してくれ、と言う気持ちを込めて熱い視線を送る。しかし響木は花音の手、まだ僅かに震える指先を見て首を横に振った。
 諦めきれない花音は、1人、眉を寄せて手を握る。

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