18話 2/2

 試合開始直前、木野は不安そうな面持ちでコートを眺めていた。試合直前の練習で宍戸が怪我をしそうになったり、帝国学園に対する気持ちでバラバラだったりと、試合の前に気掛かりが多い。加えてつい先程目にした光景が忘れられず、木野は音無を見た。
 何かを我慢するようにキツく唇を閉じ、これから始まる試合を見据える音無はどこか辛そうだ。木野は円堂が言っていた言葉を思い出してしまう。
 鬼道と音無が、実は血の通った兄妹だということ。また、鬼道は兄妹共に暮らすために在学中の3年間、フットボールフロンティアで勝ち続けなければならないということ。ーーつまり、雷門中が勝ったら2人は一緒に暮らせない、ということ。
 話を聞いた直後に、鬼道と音無が話しているところを見かけた。鬼道の頑張りも虚しく、音無は彼が自分を邪魔に感じていると思い込んでいるらしい。涙を滲ませながら「もうあの頃の優しかったお兄ちゃんじゃない」と言う音無に、円堂も木野も言葉を失った。
「涼…」
 不意に聞こえた花音の呟きに、木野はハッとして隣を見た。木野の隣に座る花音は、見るからに顔色が悪い。その視線の先ーー帝国学園ベンチに涼の姿を見つけて、木野はまた花音を見る。よく見ると僅かに震える指先を組むように、祈るように花音は涼を見つめていた。
 両チーム選手同士の握手が終わり、スターティングメンバーが全員持ち場についた。コート上では円堂が何かを呼びかけている。試合を前に皆を鼓舞しているのだろうかと木野は思った。
 スタジアムには鳴り止まない歓声が轟く。高らかにホイッスルが響いて、染岡がボールを蹴った。
 その時、彼等の頭上から太い鉄骨が降り注いだ。無慈悲に突き刺さるそれに、コートには土煙が立ち込める。スタジアム中が騒然となる中、雷門中ベンチは悲鳴すら上げられず立ち上がった。辛うじて「みんな…」と呟く木野もまた、雷門側のコートに伸びる鉄骨から目が離せない。
 あまりのことに、帝国学園の選手達も目を見開いて動けないでいる。ただ1人、真っ直ぐに熱い視線を送る鬼道だけが、拳を握り冷静に事態を把握しようとしていた。
 次第に舞い上げられた土埃が引いていく。視界が晴れた時、雷門イレブン全員の無事が確認できた。ベンチの一同はホッと胸を撫で下ろす。
 不意に、花音は帝国学園ベンチを確認した。先程までそこに居たはずの涼が、グラウンドから走り出していく背中を見つける。
 花音は思うよりも早く、その背を追って駆け出した。

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