13話 2/3

 後半戦が始まり、漸く秋葉名戸学園の選手達が動き始めた。相変わらず奇天烈な行動が多いが、前半とは違い前進する彼等に先手を取られる形で雷門イレブンは1点を許してしまう。
 雷門中ボールで試合が再開され、秋葉名戸学園が1点を守り切ろうと全員で守備に入る。なんとかゴール前まで切り込んだ染岡のドラゴンクラッシュも、秋葉名戸学園KPの技でどうやら得点にならなかったようだ。
 どうやら、と曖昧な表現になってしまうのには理由がある。五里霧中と呼ばれる相手の技は、足を高速で横にスライドさせ、砂埃をたてて相手の視線を遮るものらしい。視界が悪く確認が出来ないが、確かに染岡のシュートはゴール正面へ飛んでいったはずだった。
 頭を悩ませる花音を他所に、雷門中が連続でシュートを放つ。だが誰のシュートも決まらず、ただ時間だけが過ぎていった。
 焦り始めた雷門イレブンに、ベンチに居た雷門の喝が飛んだ。花音も歯痒さを堪え、冷静に考え込む。
 相手の視界を遮る技だと思っていたが、それだけではないのかもしれない。催眠術を使った技もあるようだし、その一種とも考えられる。
 花音は、シュートを放った松野の足から離れたボールを目で追った。砂埃の中に消えていったそれは、砂埃が落ち着いた時にはゴールの裏側に転がっていた。
「ゴールの裏?」
 花音は再び首を捻る。
 普通ゴールからズレただけなら横に転がっているはずだ。ゴール裏に落ちている、というのは些か不自然だ。
「五・里・霧・中!」
 秋葉名戸学園が再度技を放つ。花音は砂埃に霞んでくゴールに目を凝らし、自分の目を疑った。
 砂埃が引いた時、ほんの少しだけゴールの位置が右にズレている。ということは砂埃の中で何らかの動きがあり、それによってゴールがズレたという事になる。
 まさか、と花音は独り言ちた。砂埃の中で、彼等はゴールを動かしているのだろうか。いや、しかし、それ以外に考えようがない。
「シュートを打ってはいけません!」
 シュートのモーションに入りかけた染岡に、目金の言葉がそれを遮った。染岡は驚きに声を溢すが、目金の真剣な眼差しに大人しく従う。
 目金も気がついたらしい、と花音は確信した。彼は視界不良の中進んでいき、砂埃が引きゴールゾーンの選手達が姿を現した際、その1人の動きを遮っていた。3人がかりでゴールポストを動かそうとしている彼等が顕になる。
「僕にボールをくださいっ!」
 勢いよく叫んだ目金にボールが渡り、雷門中の反逆劇が始まった。ディフェンスにつく相手の選手にオタク魂の籠もった説教をして、目金は驚異的なスピードで上がっていく。
「染岡くん、ドラゴンクラッシュです!」
 目金の指示に染岡はたじろぐ。考えがあると言い切った目金は、染岡へとパスを通した。言われた通り、染岡はドラゴンクラッシュを打つ。
 しかし、相手GKの抵抗でまたもゴールはずらされてしまった。このままでは入らない、と誰もが顔をしかめた時、目金が動く。
 染岡の放ったシュートを、ヘディングの要領で体を呈してゴールへと導いた。だがそのヘディングのようなものは、本来のヘディングとは異なり顔面でボールを弾く、かなり危険なものだ。額どころか顔面にボールが当たり、トレードマークである眼鏡は大きな被害を受けた。
 倒れながら「メガネクラッシュ」と命名して、目金は儚く散った。担架で担がれてコートを後にする姿は、深い哀愁を帯びている。
 目金の必死な姿に感化されたのか、秋葉名戸イレブンの動きはそれ以降大きく変わった。正々堂々ゴールを狙いに来る彼等に、雷門イレブンも一進一退の戦いを繰り広げる。
 試合は1-1の同点のまま、終了の時刻が迫ってきた。
「風丸!」
 花音は半ば強引にボールを呼び寄せ、駆け上がる。マークについた選手を1人、2人と抜き、調子づいてきた。ブロックに入った3人目を股抜きで超えて、花音がペナルティーエリア近くまで駆け抜ける。
 試合時間残り1分の表示が、花音の視界の隅をかすった。今日の試合に出場出来なかった豪炎寺の分も、花音は拳を握る。
「ウンディーネ!」
 詰めてきた秋葉名戸学園DFに対応し、体勢を崩しながらシュートを放った。花音のシュートは力強く飛んでいき、ゴールの中心を打ち抜く。
「やった!」
 そこで試合終了のホイッスルが響いた。シュートモーションを終えて地面に尻餅をつく花音が、2-1の表示を見てガッツポーズを作る。雷門中サッカー部の地区予選決勝進出が確定した。

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