11話 3/3

 河川敷のグラウンドに場所を移して、花音と円堂は向かい合った。真新しい雷門ユニフォームに袖を通した花音は、軽く柔軟をしてボールに足を置いた。
 円堂が構えるゴールの前には、花音の望み通りDFがーー栗松、風丸、壁山が立っている。花音の後ろ、反対側のコートには他の部員達と涼が立っていた。豪炎寺は通院のため先に帰宅したが、概ね全員が揃って花音のシュートに興味津々。涼の仏頂面だけが際立つが、サッカー部の雰囲気に口を出すつもりはないらしい。花音は涼に選手登録を止められると思っていただけに、少し意外だった。
 息を吸い込んで、円堂に「行くよ」と声を掛ける。円堂が頷くのを見てから、花音がボールを蹴り出した。
 彼女の持ち味である柔軟な足首を用い、軽い足捌きでボールを弄ぶ。プレッシャーをかけに来た栗松をダブルタッチで軽く抜いた。次いで並走するように寄せてきた風丸を、シザースで翻弄する。タイミングをずらされた風丸を置いて、花音は更に加速した。接近した一瞬、花音が今までにない程楽しげな表情をしているのに気づき、距離を離された風丸は思わず足を止める。そうしている間にも花音はゴールへと寄っていった。
「勝負っス!」
 壁山がペナルティーエリア前で花音を待ち構える。壁山の正面に駆け込んだ花音は、ボールを足裏で引き寄せながら半回転し、逆足で押し出して更に半回転。華麗なルーレットで壁山を抜ききった。
「円堂くん、いくよ!」
 おおよそゴールエリアまで来た花音がシュートモーションに入る。円堂も両手を一度音を立てて合わせてからしっかりと腰を落として構えた。
「オシ、こい!」
 その声に更に口角を上げて、花音がボールを蹴った。ボールから水飛沫があがり、それはやがてボールを包み込んでゴールへと飛んでいく。
「ウンディーネ!」
「熱血パンチ!」
 円堂が強く握った拳を突き出した。まるで初めて会ったあの日のようで、花音は思わず吹き出してしまう。
 やや競り合って、やがてパンチが弾かれる。水圧に押し込まれる形で花音のシュートがゴールを割った。
 ネットに勢いを殺されたボールが地面を跳ねる。静まり返ったグラウンドで、花音は深く息を吐いた。
「すご…」
 誰となく溢れた声を皮切りに、雷門中サッカー部から歓声があがる。ゴールを背に振り返った花音の目に映ったのは、こちらに駆け寄る部員達だった。心の底から受け入れられたような感覚を覚え花音は人知れず目頭を熱くする。不意に花音の背後から円堂が肩を組んできて、その勢いに思わずフラついた。
「やっぱスゲーよ、花音!」
 円堂の心底嬉しそうな声に花音も思わず満面の笑みを浮かべる。
 遠巻きにそれを眺める涼だけが、どこか切なそうな表情を浮かべていた。

prev canon next
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -