11話 2/3

 ベンチに戻った花音と豪炎寺を盛り上がった雰囲気が出迎える。花音は水を差さないように、こっそりとベンチの端に豪炎寺を座らせた。
「待ってて。今、冷やすものを…」
 救急箱に手を伸ばそうと振り向いた花音だが、突然目の前に氷入りのビニール袋が差し出されて動きが止まる。ベンチの外から伸ばされた手は、無言で花音を見下ろしていた。
「涼!」
 差し出す涼にお礼を言い、タオルで包んで豪炎寺へと渡す。救急箱から冷感湿布も取り出して応急処置を行なった。
 一連の作業を終えた花音がふと涼を振り返ると、もうそこに涼は居なかった。涼なりに遠慮して極力ベンチには近寄らないようにしているのだろう、と花音は肩を落とす。花音がもう一度豪炎寺に向き直ると、少し腫れ始めた患部に氷を当てながら彼は花音の方を見ていた。
 その視線の意図が分からず、花音は交わった視線に思わずヘラリと笑った。

「えぇっ!ドクターストップ!?」
 円堂の声が部室に響く。部室中央には松葉杖をついた豪炎寺と、それを取り囲む部員とでひしめき合っている。痛々しく固定された豪炎寺の足に、皆が頭を抱えた。
 地区予選準決勝となる次の試合、雷門中は豪炎寺なしで出場するしかないようだ。攻撃の要となる豪炎寺が抜けてしまうのは、つい先日まで弱小サッカー部として名を馳せていた雷門イレブンとしては痛い。
「そんなあ!」
 皆を気持ちを代弁するように、またも円堂の声が轟く。と、悲しげな雰囲気を壊すように部室に雷門が入ってきた。
「柑月さん、良い知らせよ。」
 強かな雷門の声が、部室を占拠する。名前を呼ばれた花音は、突然の指名に戸惑いの表情を浮かべた。皆の視線を集め、堂々たる様子で雷門は言う。
「…さっそく推薦の返事が来たわ。上手くいけば、次の試合から出られるそうよ。」
「えっ!?」
 花音は驚きで目を丸くする。事態が飲み込めない円堂が、「出られるって?」と首を傾げた。躍る胸を抑え、花音は体ごと皆に向き直る。
「実は、女子も試合に出られる制度があって…その申請をしていたの。」
「実技テストの結果次第だそうだけど、理事長先生によれば、概ね良い反応だそうよ。」
 花音の説明に雷門が捕捉した。円堂は理解しきれていないようで、「えーっと、つまり?」とまた首を傾げる。
「つまり、次の試合から私も選手として出場出来るかもってこと。」 
「本当か!?」
 円堂が目を輝かせた。円堂の嬉しそうな様子に、他の部員達も心なしか表情が明るい。花音の実力を知らない彼等にとって、彼女の参戦を心底喜ぶ円堂が少し不思議に映るようだ。円堂もそれは感じ取っていたようで、花音と円堂のPKを提案する。花音は少し考え、条件をつけてそれを承諾した。

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