10話 2/4

 雷門中には、開かずの扉と呼ばれる場所がある。生徒の間でまことしやかに囁かれる、「雷門七不思議」という噂話のある場所だ。花音の目の前でその扉が甲高い音を立てて開いた。驚いて言葉も出ない花音を、雷門が返り見て言う。
「何してるの?早く入ってちょうだい。」
 中に踏み入れると地下へと繋がる階段があり、奥からひんやりと冷たい空気が立ち上っていた。雷門が迷う様子もなく下る姿を見て、花音は一度涼を振り返ってからそれに続く。
 暫く下りると、巨大な機械が立ち並ぶ広く明るい空間に出た。
「ここは…?」
 おっかなびっくり機械に触れながら、花音が雷門を窺う。雷門は機械の操作試験を行いながら、「イナビカリ修練場」と涼しい声で言った。
「嘗てイナズマイレブンが使用していた練習場よ。」
 花音は驚きと感嘆で口を開ける。
「…なんでまた…なっちゃんがそれを?」
 花音の問いに、雷門が今度は手を止めて振り返った。
「…私、サッカー部のマネージャーをすることにしたの。」
 更に花音はあんぐり口を開いた。「あれだけ廃部をチラつかせていたのに?」と溢しそうになり、慌てて両手で口を覆う。雷門は恥ずかしそうにそっぽを向いた。
 不意に花音の肩が叩かれる。いつの間にか近くに居た涼が、上で声が、と目を細めながら言った。
「あら、そろそろ時間ね。」
 雷門が来た道を戻り、階段を上る。花音も後を追い、段々と声の主がハッキリとしてきた。この声はどうやら、円堂の声だ。
 雷門が操作し、再び扉が甲高い音を立てて開いた。辺りに叫び声が響き、少し静寂が訪れる。
「みんな揃ったわね?」
 扉の向こうから突然現れた雷門にそう問われ、円堂達サッカー部一同は唖然とした表情だった。
「夏未、花音!?」
 地下まで響くような円堂の叫びが炸裂する。花音は笑顔を作った。
「試合、休んじゃってごめんなさい。…これからは体調管理も気をつけるね。」
 扉の前のサッカー部全員に向けて花音が頭を下げる。顔を戻すと、円堂は眉を下げて「元気そうで良かった」と笑った。
「それで、後ろの人は?」
 円堂に促されて花音がチラリと後ろを振り返る。涼が少し遠くを見るようにして立っていた。
「私のいとこの、涼。雷門の生徒ではないんだけど…暫くの間、えーっと…部活を見学させて欲しいの。良いかな?」
 言いながら涼の視線を先を追い、集団の後ろの方に佇む豪炎寺を見ていることに気づいた。基本的にあまり他者に興味を示さない涼が珍しい、と花音は少し首を傾げる。
 円堂は間髪入れず、「ああ。良いぜ!」と清々しく笑った。円堂が、今度は涼に向き直って言う。
「俺、円堂守。サッカー部キャプテンで、ポジションはGK!よろしくな!」
 円堂が右手を差し出す。涼は戸惑いつつもその手を取った。
 一歩下がってそれを見ていた雷門が「もういいかしら?」と髪を払う。踵を返して流し目で口角を上げた。
「付いて来て。」

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