07話 2/2

「…で、私が言いたかったのはあなたのお義兄様の事よ。」
「すみません…。」
 理事長室の来客用ソファに雷門と向き合うようにして座り、花音は頭を下げていた。「毎日、校門前に目立つバイクを止められると学校の世間体に傷が付く」という雷門の主張は尤もで、花音は反論もなく平謝りを繰り返す。雷門直々に注意を受けた事を伝えれば、任介も花音の言い分を聞いてくれるだろう。それは少し都合が良い。
「近所から苦情も来てるのよ。心配なのも分かるけど、せめて相応しい方法で送迎して貰えないかしら。」
「…必ずバイクを辞めさせます。これからは練習もあるし、ずっと待っていられても困るので。」
 花音の言葉に満足したらしい雷門は、「貴女も入部、したのよね」と呟く。遠くを見るような目線で窓を見やる雷門に、サッカー部に対する関心の高さが感じられた。
「気になるんなら、なっちゃんも入っちゃえばいいのに。」
 花音の言葉に、前々から呼び方に不満があった雷門はピクリと眉を寄せた。しかし呼び方には反応せず、少し間を置いて「あれだけ煩ければ、誰だって気にはなるわよ。…大会の結果次第じゃ、学校の評判にも関わるでしょうし、ね。」と雷門が肩を落とす。
「でも、それだけよ。」
 そう続ける雷門を見て曖昧に相槌を打つ花音だったが、言葉とは裏腹に楽しげな雷門の表情を見逃さなかった。

 花音がグラウンドに戻ってきた時、サッカー部の面々は部室の横で用務員の古株を囲うように集まっていた。
「正に、サッカーそのもののような男だったよ!」
 古株の言葉は誇らしげで、どうやら話の盛り上がり所らしい。とても出ていけるような雰囲気でないと察した花音は、少し離れた木陰でそれを眺めていた。
「よーし、俺絶対、イナズマイレブンみたいになってやる!」
 円堂が立ち上がり拳をつくった。風丸が「1人でなるつもりか?」と尋ねると、「もちろんみんなでさ!」と元気良く円堂が答える。つられて他の部員の表情も明るくなった。
 微笑ましいな、と思い花音が視線を逸らすと、顧問の冬海が校舎の陰、サッカー部から死角になる場所で電話をしている姿が目に映る。肩を丸めてコソコソとした様子で、見るからに怪しい。見てはいけないものを見たような気がした花音は、また視線をサッカー部へと戻した。

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