06話 2/2
サッカーについてなど、他愛もない話をしているうちに気づけば窓の外が暗くなっていた。
花音がふと思い出してケータイを開くと、夥しい量の着信が表示されていて、思わず顔を歪める。それに気づいた豪炎寺が家まで送ると申し出て、2人は病院を後にした。
「柑月が俺を知ってる気がしたのは、去年のフットボールフロンティアで俺を見たからじゃあないか?」
車通りの少ない道を歩きながら、豪炎寺は思い出したようにそう言った。
花音は記憶を遡り、しかし事故の影響もあって記憶が判然としない。確かに昨年の試合で観たような気もするが、断言はできなかった。
「前はどこの学校に居たの?」
「…木戸川清修だ。」
豪炎寺が学校名を口にしたとき、花音には彼が少しだけ憂いた表情をしたように見えた。
「木戸川か…」
そう言いながら空を見上げて、花音が立ち止まった。そこは大きな門の前で、柑月と書かれた表札が月明かりに照らさらている。
「よかったら、また夕香ちゃんに会いに行ってもいい?」
豪炎寺へ向き直った花音を見て、豪炎寺もここが目的地だと分かったらしかった。彼は少し微笑んで、小さな声で言葉を返す。
「…構わない。」
じゃあ、と言い残して去っていく豪炎寺の背を、花音はいつまでも眺めていた。