05話 2/2

「ゴーストロック」
 花音達が雷門中へと着いたときには、既に試合は後半戦に差し掛かっていた。グラウンドに響いた声と共に、雷門イレブンが立ち止まる。どうやら、足が動かないらしい。
 状況は1対2。差は少なくとも雷門が圧されている事には違いない。何より雷門イレブンが誰1人として動けない今、相手FWがゴール前に居るという絶体絶命な場面をどうやって抜け出すのか。
「ゴロゴロゴロ、ドッカーン!!」
 唐突な円堂の叫び声を聞いて、雷門イレブンは動き始めた。円堂がギリギリの所で相手のシュート技を防ぐ。どうやら解決策が見つかったようだ。
 雷門の反撃が始まった。雷門FWが前線へと駆け上がる。
「ドラゴンクラァァッシュ!」
 蹴り上げたボールと共に天へと登る青龍。かと思えば、ボールを追って豪炎寺も飛び上がった。
「ファイアトルネード!」
 青龍は炎を纏い、身を赤く染めた。今まで決まらなかったシュートが相手のゴールを割る。沸き起こるグラウンド。しかし花音はその波に乗る事は出来なかった。
「…ファイア…トルネード…?」
 豪炎寺のあの技、いつかどこかで見た覚えがある気がするするのだ。記憶を遡る花音を、横に座って試合を眺めていた任介が現実へと呼び戻す。その表情はいつになく真剣だった。
「花音、…あいつ、知ってるのか?」
 指先で示したのは、まさしく豪炎寺だった。花音は先日、河川敷で不良から助けてもらった話をする。それを聞いた任介は安心したような、少しだけ悲しそうな表情で頷いた。
「…あれ?涼…?」
 ふと見れば、先程まで任介とは反対隣に座っていた涼の姿が消えている。花音が余所見をしているうちに、気づけば雷門イレブンは大逆転勝利を収めていた。

 試合も終わり、観客も帰った夕暮れの中、雷門イレブンはグラウンドに集まっていた。物語のような逆転劇を起こしたチーム、その全員がキラキラした瞳をしている。
「フットボールフロンティアに乗り込むぞ!」
「おー!」
 校舎の陰まで聞こえる大きな声で、勝利の余韻に浸っているらしい彼らに、花音はそっと近づいた。いの一番に円堂が気付き、「花音!来てたのか!」と大きな声で手を振った。次いで周囲の視線も花音へと向く。
 涼と任介に無理を言い、先に帰した花音には、今日今ここで雷門イレブンに伝えたい事があった。
 周りからの説明を請うような視線を受け、円堂は「こいつは柑月花音。すっげぇシュートを打つ奴なんだ!」とまるで自分の事のように誇らしげに言い切った。少し恥ずかしくなった花音が謙遜をする。何も知らないクラスメイトが驚いて彼女の方を見ていた。
「柑月って、サッカー出来たんだ…」
 呟いたのは風丸だった。今度はその言葉に、円堂が不思議そうな声を出す。
「知り合いなのか?」
「クラスメイトだ。」
「クラスメイト?花音って雷門中だったのか!?」
 花音が笑顔で肯定をして、それから居住まいを正した。チーム一人一人を軽く見回すと、木野が少し不安そうにこちらを見ている事に気づく。花音は円堂に向き直ると、「今日は伝えたい事があって」と本題を切り出した。
「私もサッカー部に入れてほしいの。マネージャーでも、雑用でも…本当は選手として頑張りたいけど。」
 公式戦には出られないしね、と苦笑する。雷門サッカー部の視線を一身に受け、花音は内心、心臓が飛び出しそうだった。突然のことで断られたり、軽蔑されるかもしれないとビクビクしている。けれど花音の視線の先で、円堂はぱっと顔を輝かせて喜んだ。
「もちろん決まってるさ!花音も一緒にサッカーしようぜ、なあみんな!」
 円堂の高らかな呼びかけに「おー!」と大きな声で返事が続く。花音は涙が出そうなくらいホッとしながら、円堂率いる雷門イレブンの魅力をまた少し感じていた。

prev canon next
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -