05話 1/2

 試合後、ユニフォームを脱ぎ捨てた豪炎寺だったが、その後サッカー部へ入部したらしい。帝国学園との練習試合のおかげか勢いづいて、「サッカー部としてらしくなってきた」ともっぱらの噂だ。
 花音はあの日、試合終了際に駆けつけた涼に見つからないよう、こっそりと任介と落ち合い帰宅した。家に帰っても、一晩寝ても、あの試合の空気や歓声がふとした瞬間にフラッシュバックする。花音は、あの日の試合を思い出しては高鳴る胸が誤魔化せなくなっていた。
 そして今日もまた、雷門イレブンの練習試合の日だ。前回のように予定を立てて連れ出されることはなかったが、今回は涼が朝からリビングに居て、花音を見張っている。外出する素振りを見せたらついてくるだろう。それでも花音は、今日涼にこの気持ちを伝えようと心に決めていた。
 外出の準備をして自室から出た。深呼吸を一つして、一歩一歩階段を降りる。そして一階へと辿り着いた時、ちょうど花音の行先を塞ぐように涼は立っていた。
「…どこに行くんです?」
 いつも聞く声より少しだけ低い涼の声。しかし花音は臆せずに答えた。
「雷門サッカー部の試合。…涼、私、サッカーをやりたいの。」
 いつになくはっきりと自分の意思を主張する花音に、涼は少しだけ驚いたような表情を見せる。言葉に詰まる涼をよそに、花音は続けた。
「怪我をするかもしれない。嫌な記憶を思い出すかもしれない。それでも、私サッカーがやりたい。サッカーが、好きなの。」
「お嬢…。」
「お願い、涼。」
 まっすぐ真剣な花音の眼差しを受け、涼は少しの間口を噤んだ。それは時間にして5、6秒の出来事だったが、花音にとってはとても長い一瞬だった。
 涼は深いため息をつき、目を伏せる。
「分かりました。…でも、何かあったらすぐ言ってくださいよ。」
 降参、というように涼が肩をすくめた。途端花音は目を見開き、飛び上がって喜ぶ。
「ありがとう、涼!」
 時計を見れば、試合開始まであと少し。花音が慌てて家を飛び出すと、待ってましたと言わんばかりに任介が立派な車の横で待っていた。
「任にい!」
「試合観に行くんだろ?俺も行く。」
 任介が運転手に合図して、後部座席のドアが開く。すると、花音の背後から玄関のドアが開く音がした。
「僕も行く!」
 振り返ると、軽装の涼がまっすぐ車へと近づいてくる。驚いている花音を急かすように、涼はそっと彼女を後部座席へと押し込んだ。いつの間にやら任介も車に乗っている。後部座席のドアを閉めた涼が、自分は助手席へと座り運転手へ指示を出す。まもなく雷門中へ車は出発した。

prev canon next
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -