32話 4/4

 給水を終えた世宇子イレブンがコートへと戻ってきた。風丸のスローインで試合が再開する。ボールは鬼道の元まで転がった。
「有人!」
 花音がハーフライン手前でボールを呼ぶ。前半のうちになんとか1点をもぎ取りたい、その気持ちが表情にありありと出ていた。
 鬼道が花音を見、コート前方に走る豪炎寺と一之瀬を見てボールを蹴る。花音は少し上がったボールを胸でトラップし、足元へ収めた。
 身を翻し世宇子ゴールを見る花音の前に、笑みを湛えたアフロディが立ちはだかる。花音は初めて真正面に捉えたアフロディに、眉を顰めた。
「やあ、君は…宗雲政の妹なんだってね?」
 動こうとしないアフロディだが、その隙のなさに花音は足を止める。彼はどこか楽しげに言葉を続けた。
「彼も‘不運’だったよね。サッカーを続けていれば、今頃はプロジェクトZにーー世宇子中に居たかもしれないのに。」
 アフロディが声量を落として「影山総帥に刃向かわなければ、ね。」と呟く。花音は強く拳を握りしめた。
「お兄ちゃんはあなた達とは違う。例え事故に遭っていなくても、サッカーを続けていても、きっとそこには居ない!」
 花音が勢いよく走り出す。微動だにしないアフロディの横を、花音が抜き去っていった。アフロディはやはり笑いながら、肩越しに花音を見て言う。
「そうだね…所詮は神になれなかった、哀れな存在さ。」
 ハーフラインを超えた花音へ、世宇子DFが詰め寄った。DF技・メガクェイクで阻まれる直前、花音はボールを前方へ送る。高く放り投げられながらも、一之瀬へ向かうボールの行方を見ていた。
 花音が受け身もそこそこに地面に身体を打ちつけた頃、ボールを受け取った一之瀬と豪炎寺もまた、世宇子DFの激しいブロックを受けていた。痛みに耐えながら顔を上げた花音の横を、無情にもボールが通り過ぎていく。
 手を伸ばす花音を嘲笑うように、ボールを受け取ったアフロディは雷門DF陣を荒らしまわる。そして遂に円堂が倒れ、コート内で立っている雷門イレブンの姿が無くなった。0-3と点差こそ広がらないものの、その光景は痛々しいほどの差を見せつけていた。
「…限界だな。」
 目を伏せたアフロディが主審に判断を仰ぐ。辺りを見回した主審は左手を掲げた。「試合続行不可能ということで、この試合世宇子中の」そう言いかけた主審の言葉を遮り、円堂が起き上がる。
「まだだ、まだ、試合は終わってない」
 円堂の声に、皆も立ち上がった。満身創痍にも関わらず闘志を失わない雷門イレブンを見て、主審は静かに上げていた手を下ろす。
 呆気に取られるアフロディへ、鬼道が背後から言葉を投げた。
「信じられないという顔だな。円堂は、何度でも何度でも立ち上がる。倒れる度に強くなる。お前は円堂の強さには敵わない!」
 言い切った鬼道に目もくれず、アフロディが「では試してみよう」と低く呟く。再びシュート技・ゴッドノウズの体勢に入る彼に、スタジアム中の目が釘付けになった。天高く飛び上がる彼がシュートを蹴る直前、前半終了の笛が鳴る。
 打開策が見つからないまま、花音は3点ビハインドの得点板を睨んだ。

prev canon next
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -