32話 3/4

 世宇子イレブンの猛攻を受け、雷門選手達がコートに伏せる。ボロボロになる仲間を前に、花音は自身もコートに伏しながら渋い顔をした。
 雷門ゴールの前に立つアフロディは、冷めた声色で「チームメイトが傷ついていく様子をまだ見たいのか?」と円堂へ問いかける。黙ったままの円堂を見下ろし、彼は追い打ちをかけた。
「続けるか棄権か、君が決めるんだ。」
 暫し沈黙が辺りを包んだ。倒れ込んだ雷門イレブンと息すら上がっていない世宇子イレブンの対比に、観客席からも声が止む。目を伏せ、黙ったままの円堂へ選手達の注目が集まった。
「何を迷ってる、円堂!」
 突然響いたその声に、花音は驚き振り返る。傷だらけの豪炎寺が、右手で胸元をきつく握りながら言った。
「俺は戦う。そう誓ったんだ!」
 円堂の目を見て語りかける豪炎寺の、その切実そうな声に力を受けて花音もよろめきながら立ち上がる。彼の言葉に同調するように叫んだ。
「私も…まだ戦える。まだ、負けてないよ!」
 地面に打ち付けられた衝撃から、身体の節々が痛む。しかしじっとしていられない気持ちが花音を突き動かしていた。
「豪炎寺や花音の言う通りだ。まさか、俺達のためにと思ってたりしたら、大間違いだ!」
 風丸も覚束ない様子で足を踏ん張る。彼もまた、円堂を見る目は真剣そのものだ。
「最後まで諦めないことを教えてくれたのは、お前だろう!」
 鬼道が同調するように円堂へ呼びかける。傍に転がっていた一之瀬も身を起こして言った。
「俺が好きになったお前のサッカーを見せてくれ、円堂!」
 コート内の皆が口々に円堂の名を呼ぶ。誰1人として諦めていない、強い意思を感じる声だった。
 皆の声援を受け、円堂がゆっくりと立ち上がる。顔を上げた円堂がアフロディを睨みつけた。その表情は数秒前よりも強い希望を抱いている。
 雷門ボールで試合が再開した。早速駆け上がる豪炎寺達が、呆気なく蹴散らされる。ボールを奪われすぐさま世宇子のカウンターが始まった。ブロックに入る面々も吹き飛ばされ、シュート技・ディバインアローがゴールへと向かう。
 ゴッドハンドが通用しないことを心得ている円堂が、決意の表情で右手を挙げる。
「マジン・ザ・ハンド!」
 正面から捉える形でボールを受け止めようとした。しかし力を発揮しきれず、弾き飛ばされ尻餅をつく。ゴール外へと転がったボールを世宇子FWが軽く弄んだ。
「失敗…」
 花音が小さく呟く。倒れた際に口周りに付いた芝を払いながら、少しずつ起き上がった。
 円堂がマジン・ザ・ハンドを成功させられない以上、花音達は世宇子中の猛攻を凌駕するシュートを決めなくてはならない。せっかく習得したシュート技も、ゴールを狙うタイミングが無くては意味を為さない。
 落ち着け、落ち着けと花音は自身に言い聞かせる。0-3と点差は大きいが、まだ巻き返せないレベルではない。
 世宇子のシュートに齧り付く円堂に、アフロディが「まだ耐えられるというのか」と静かに声を漏らす。彼は楽しげに「興味が湧いてきた、君がどこまで耐えられるのか」と口角を上げ、ふとベンチへと視線を向けた。何かを確認し、ボールをコートから蹴り出す。そしてアフロディ含め世宇子イレブン全員がベンチへ戻り、水分を摂り始めた。
 試合前と同じ、異様な光景にスタジアムが騒つく。花音はその異様さを最早隠そうともしない影山に、下唇を噛んだ。

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