16話 2/2

 中学生が制服で1人、平日の昼の街を歩くのは気が引けた。知らない店に入る勇気は花音にはなく、まだ人の少ない雷雷軒に入る。
 店主のおじさん・響木は突然の来客に少し驚き、読んでいた新聞を閉じながら「おお?お前はよく大介さんの孫と一緒に来る…」と溢した。認識されているようで、花音は少し嬉しくなる。
「…今は学校の時間じゃないのか?」
 立ち上がりつつ響木が言った。花音は目を泳がせながら「えっと…そう、です。」とだけ答えてカウンターに座る。
「サボリか?」
「そんなところです。」
 響木の質問に返事をしながら、花音がメニューを確認し注文した。響木はカウンターへと入りながら、まだ少し訝しげだ。花音がここへ来た食事以外の理由を探しているのだろう。
「…私は今日は、監督になってなんて言いませんよ?」
 花音は先手を打つように言った。響木が視線だけで「本当か?」と問うので、続けて花音は言う。
「学校サボってる人が言うと思います?」
「それもそうだ。」
 納得したらしい響木が、会話をしながらも手際良く準備していたラーメンを出す。花音はお礼を言い、食べ始めた。
 一仕事終えた響木がまた空いている客席に座って新聞を広げる。花音の麺を啜る音と響木の新聞を捲る音だけが暫く店の中に響いた。
「…サボりのお嬢さんは選手なのか。」
 唐突に言ったのは響木だった。花音は思わず顔を上げて、響木の方を見る。丁度先日の試合の記事が新聞に載っていたのだろうか、響木は驚きがちにこちらを見ていた。
「ええ…少年サッカー協会で認めてもらえて…学校の理事長が会長なのもありますけど、なんだか有力者が一緒に推してくれたらしくて。」
「有力者?」
 花音は以前伝え聞いた言葉を思い出す。「えっと、確か…」と斜め上を見ながらその名を思い出し始めた。
「副会長?の、…か、か…影…?」
「…影山?」
「あ、その人です。」
 言いながら花音が響木へと目線を戻すと、彼は険しい表情をしてる。突然の変化に花音がたじろいでいると、響木は今までより低い声で「…サッカーが好きか?」と聞いた。花音は短く肯定する。響木が何も言わないので、花音は畳み掛けるように言った。
「私、サッカーと、一緒にサッカーしてくれる仲間が大好きです。それに…円堂となら、本当にイナズマイレブンになれると思うんです。」
 響木はやはり何も言わなかった。花音がサングラスの向こうにある瞳をじっと見つめる。
 静まり返った雷雷軒に、円堂がやってきた。彼は花音が居たことに驚いた後、響木に向けて勝負を持ちかける。いつになく押しの強い円堂に、花音は静かに成り行きを見守っていた。
「おじさんが3本シュートを打って俺が3本とも止めたら、監督をやってくれ!」
「3本中3本だと?アホな勝負だな。」
 呆れ半分な響木に、正面に立つ円堂が凄む。
「やるの?やらないの?」
「…大した自信だな」
 そして2人と花音は河川敷へと場所を移した。

prev canon next
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -