32話 1/4

 決勝当日の朝、雷門サッカー部に試合会場の変更が告げられた。変更先の世宇子スタジアムは、見上げるほど大きく、荘厳な姿だった。
「影山の圧力ね…どういうつもりかしら。」
 突然の会場変更に、雷門が腕を組んでスタジアムを睨む。無人の観客席やスタッフの姿のないグラウンドは、とても静かでどこか恐ろしい印象を受けた。
 皆が不安そうに辺りを見回す中、円堂がどこからか視線を感じて振り返る。彼が見上げた先、遥か上方に影山の姿があった。
「影山っ!」
 円堂が声を漏らし、皆の視線が影山に集まる。雷門イレブンを見下ろした影山は、不敵な笑みを浮かべた。
 皆に倣って、花音も影山へ目を向ける。深い色のサングラスの向こう、腹の底の窺えない影山の様子を見て眉を寄せた。『因縁』、その言葉が脳裏を駆ける。自身を落ち着かせるように、花音は大きく息を吐いた。
「円堂、話がある。」
 響木が改まって口を開く。いつもより数段低いその声色に、皆の注目が集まった。
「大介さん…お前のお爺さんの死には、影山が関わっているかもしれない。」
 ゆっくりと言い聞かせるように響木が言った。
 突然の告白に、花音は息を呑む。肩を揺らす者、ぽかんと口を開ける者、皆一様に響木と円堂の会話に釘付けになった。
 円堂が堪えるように下唇を噛む。雷門はそんな円堂を見兼ねてか、響木へ「何故こんなときに」と苦言を呈した。響木はそれに答えず、ただ黙って円堂を見ている。やがて円堂は、脂汗をかきながら肩で息をし始めた。
 豪炎寺が、円堂の肩に手を掛ける。心配そうな彼の目を見て、円堂は1つ大きな息をした。豪炎寺はその様子に満足そうに微笑み、円堂へ頷いた。
「円堂くん」
 雷門が円堂を呼ぶ。続けて木野も呼びかけて、彼の瞳の奥をじっと見つめた。
 やがて雷門イレブンの面々が、円堂に声を掛けた。もちろん花音もそれに続き、じっと彼を見る。
 もう一度大きく息を吸って、円堂は肩の力を抜いた。
「監督、みんな…。こんなに俺を想ってくれる仲間、みんなに会えたのは、サッカーのおかげなんだ。」
 円堂が俯きがちに言葉を紡ぐ。彼の声を聞き漏らすまいと、皆身を乗り出すように齧り付いていた。
「影山は憎い。けどそんな気持ちでプレーしたくない。サッカーは楽しくて、面白くて、ワクワクする。1つのボールにみんなの熱い気持ちをぶつける、最高のスポーツなんだ!だからこの試合も、俺はいつもの‘俺たちのサッカー’をする。みんなと優勝を目指す。」
 そこで言葉を区切った円堂が、顔を上げて笑みを浮かべる。その表情が余りに眩しくて、花音は無意識に目を細めていた。
「サッカーが好きだから!」
 一際大きな声で円堂が言う。彼のその姿に豪炎寺や木野、雷門が満足そうに頷く。
 そうしていつも通り、明るい雰囲気の雷門イレブンに向けて「さあ、試合の準備だ」と響木が声を掛けた。

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