27話 2/2

 夕焼けに染まる空の下、雷門イレブンは飛び立つ飛行機を眺めていた。
「あの飛行機に乗ってるのかな?」
 円堂が少し寂しげに言う。
 トライペガサスが完成してすぐ、アメリカに発つため一之瀬は空港へ向かった。
「一之瀬ー!また一緒にサッカーやろうぜー!」
 元気に叫んだ円堂の言葉に、「うん、やろう!」とあるはずのない返事が返ってくる。背後からの思わぬ声に円堂が振り向くと、一之瀬が飛行場に向かった姿のまま立っていた。
「どうして!?」
 大きなスーツケースに片肘を置いた一之瀬は、目を伏せて木野の問いに答える。その口元は笑っていた。
「あんなに胸がわくわくしたのは初めてだ。だから、帰るに帰れない。」
 一之瀬が持っていた飛行機のチケットを破り捨てる。「円堂達と一緒に、サッカーがしたいんだ!」と言う彼に、円堂も喜びの声をあげた。
 円堂と一之瀬が固い握手を交わす。その手に皆の手が重なって、円陣ができた。
 花音は一際嬉しそうな木野の顔を盗み見て、つられて余計に笑みを浮かべる。重なる手の重みに、チームの力を感じた。
「みなさーん!」
 水を差すように、音無の声が響く。グラウンドの外から走ってきた音無は、円堂達の前まで来ると「次の対戦相手が決まりました…」と息を切らした。
 円堂が先を促すと、音無は少しだけ気まずそうな視線を豪炎寺へ向ける。
「次の対戦相手は…木戸川清修です…!」
 豪炎寺へと視線が集まった。木戸川清修は、豪炎寺が元居た学校だ。
 静まり返る雷門イレブンを、夕焼けが色濃く染め上げていた。

 花音は、思った通り過ぎてつい笑ってしまった。花音に気づいた豪炎寺が、一杯食わされたような笑みを浮かべる。
「来ると思った。」
 花音は体を預けていた病院の門から離れ、豪炎寺と正面から向き合った。豪炎寺は「…花音。」と呼び掛けるだけで、多くを語ろうとはしない。
「私も付いていっていい?」
 花音の抽象的な問いかけに、豪炎寺はしっかり頷いた。
 2人が向かったのは、夕香の病室だった。相変わらず病室のベッドで目を伏せる妹は、ただ静かに眠っている。依然黙ったままの豪炎寺も、静かに彼女の寝顔を見つめていた。
 花音は横目に豪炎寺の表情を盗み見る。少しだけ苦い顔をした豪炎寺は、出会った頃の彼を彷彿とさせた。
 花音が夕香へと視線を戻した時、豪炎寺が口を開く。
「…俺は決勝戦の直前に関わらず、夕香が心配で試合を放棄した。」
 急に語り出した豪炎寺に、花音が今度は顔ごと彼へと向けた。豪炎寺は夕香を見たまま、落ち着いた様子で続ける。
「裏切ったんだ…。チームメイトである、あいつらを。」
「そんなの、違うよ!」
 思わず大きめの声を出し、花音が慌てて声のトーンを落とす。花音は「だってそんな、誰だって…」と言いながら、俯いた。溢した言葉は、つい先日まで兄のことを忘れていた自分に深く刺さった。
 大切な存在を無かった事にして平凡な生活を送っていた自分を、まだ花音は許せそうにない。
 病室はまたも沈黙に包まれる。暫くして、次に声を出したのは花音だった。
「…あのさ、行きたいところがあるんだけど…付いて来てくれないかな?」
 豪炎寺は花音の方に向き、行先が分かるような表情で頷いた。

 2人が病室に踏み入れる。しんと静かな病室が、花音には一際冷えて感じた。
 花音は一言も発さず、ベッドに眠る兄の顔を1年振りに見つめた。音のない病室はまるで時が止まっているようで、豪炎寺は張り詰めた空気に息をすることすら忘れてしまいそうだ。
 夕香にするように語りかけることも出来ない花音は、ただ黙って自分の罪を直視する。そうして無言のまま、時間だけが過ぎていった。
 暫くして、花音と豪炎寺が病室を出た。花音は階段を降りながら、「ありがとう、一緒に居てくれて。」と豪炎寺に感謝を述べる。豪炎寺は頷いて、迷いを断ち切るように短い息を吐いた。

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