27話 1/2

 翌日、一之瀬は午後の便でアメリカに帰るらしい。昨日から練習していた一之瀬達の思い出の技・トライペガサスを完成させようと、円堂、一之瀬、土門の3人は何度も練習を繰り返していた。
 刻一刻と迫るタイムリミットに、溜まっていく3人の疲労。何度やってもペガサスは煙に消えてしまった。
 トライペガサスを成功させるには、3方向から走り出した3人が、一点で互いに交差しなければならない。その一点が上手く定まらず、ただ時間だけが過ぎていく。
 花音は木野と並んで練習の様子を眺めていた。祈るように目を伏せていた木野が、不意に息を呑んで3人へと近づいていく。近くで見ていた壁山が呼びかけると、木野は振り返って言った。
「思い出したの。ペガサスが飛び立つには、乙女の祈りが必要だって。」
 木野の言葉の意味が理解できず、壁山達1年生は顔を見合わせる。
 円堂達に歩み寄った木野は、「私が目印になる」と3人に告げた。
「3人が一点で交差できるように、ポイントに立つわ。」
「そんなことしたら危ないっスよ!」
 引き留めようとする壁山に、花音も頷く。しかし木野は決意した様子で「私、みんなを信じてる。」と高らかに言った。
「頼むぞ、木野。」
 円堂が木野の表情を見て託した。慌てて栗松が止めに入るが、円堂は口角を上げて反論する。
「木野は俺達の成功を信じてくれてる。信じる心には、」
「行動で答える、だね。」
 円堂の言葉を継ぐように、一之瀬が言った。
 花音は円堂と一之瀬を見比べ、改めて2人はよく似ていると思った。
「ったく、あの時と同じだな。」
 土門が慣れたように言いながら頭を掻く。3年前、初めてトライペガサスを完成させた時も木野が目印に立った。その時一之瀬は、円堂と同じ事を言っていた。
 木野がポイントに立った。もう失敗出来ないという緊張感が辺りを包む。
「GO!」
 一之瀬の掛け声で、3人は同時に走り出した。祈るように目を瞑る木野に、花音もそっと両手を組む。
 木野の真横、丁度一点で交わった3人は、舞い上がるペガサスに誘われて空中でボールを蹴った。威力の高いシュートが無人のゴールへと突き刺さる。
 グラウンドで喜び合う4人が声をあげた。抱き合う4人に、眺めていた皆が肩の力を抜いて祝福の笑みを浮かべる。
「みんな素敵よ!」
 涙を浮かべる木野に同調し、壁山達が褒め称えた。
 円堂は、思わぬ近さから聞こえた声に抱き合っていた手を緩める。失敗した場合を考えて木野を守るべく飛び出していった1年生4人組に、円堂も嬉し涙を浮かべた。
「お前達…!」
「万が一に備えてたのは俺達だけじゃないでやんす!」
 栗松がグラウンドの端を示す。円堂が目をやると、救急箱や担架を持ってスタンバイしている雷門イレブンが並んでいた。
「みんな…サンキュー!」
 円堂が更に瞳を潤ませる。
 誰かの為に動けるこのチームが、花音は大好きだった。

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