01話 3/3

 まもなく6時になる頃。花音と円堂は、ゴール前で2人向かい合って立っていた。ゴール下に構える円堂はやや中腰で両手を軽く広げている。一方の花音は、足元のサッカーボールを2、3度小突いて浅く息を吸い込んだ。
「いくよ?」
「ドーンとこい!」
 花音が軽やかにボールを蹴り出し、短い距離ながらも勢いをつけてスピードに乗る。抑えきれないワクワクを胸に円堂を見ると、彼も今日1番楽しそうな顔を見せていた。コートの外では、木野と子供達が2人の戦いを固唾を飲んで見守っている。
 花音は、「こんなに楽しい気持ちになったのはいつぶりだろう」と最近の出来事を振り返る。柑月家に引き取られてから、花音はサッカーをすることを禁止された。花音のサッカー好きに理解のある任介はバレないように隠れてサッカーをする手伝いをしてくれるが、それでも一緒にプレーできるのは自分より年下の子供ばかり。しかし今目の前にいる円堂という少年は、きっと花音と同じかそれ以上のレベルのプレイヤーだ。
 負けたくないという言葉が花音の頭をよぎった。ゴールへの明確なコースが見え、シュートを打つモーションに入る。花音がボールを蹴り出す瞬間、ボールから水飛沫があがり、それはやがてボールを包み込んでゴールへとまっすぐ飛んでいった。
「ウンディーネ!」
 花音のシュートに円堂は「わ!」と声をあげて驚くが、その手はボールを止めようとするのをやめない。しかし、ボールを包む水の勢いに負け、手がボールから弾かれてしまった。そのままボールはゴールへと突き刺さる。
 花音は達成感半分、やってしまったという後悔半分だった。彼女のゴールを見届けた円堂はすぐさま花音へと駆け寄り、「すっげー!花音、今のなに!?」と大声で叫んだ。
 彼の声を受けて、コート外で呆けていた子供達も花音の周りに集まってきた。子供達も円堂に倣って「かっこいー!」「すげー!」と口々に褒め称える。四方を囲まれた花音は戸惑うばかりだった。
 その時、遠くから花音を呼ぶ声が響いた。
「6時過ぎてるぞ!」
 花音を取り囲む子供達が一斉に静まり返り、声のする方に視線をやる。河川敷の土手の上には、バイクに跨ったままの任介が立っていた。
「ごめん、みんな。またね!」
 花音はそう言い残し、ベンチに置いていた荷物を取りに走る。木野がベンチ付近の荷物をまとめ、急ぐ花音に手渡した。感謝の言葉もそこそこに、任介のバイクに向かって土手を駆け上る。
 花音はリアボックスに荷物を詰め込みながら、ふと、雷門中の制服がチラリと見えていたことに気がついた。手渡してくれた木野には雷門中の生徒だとバレてしまっただろう。花音は自分の詰めの甘さを嘆く余裕もなく、自宅へと急いだ。

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