24話 2/3

 後半戦が開始し、次々と放たれる雷門イレブンの必殺技はあえなく無限の壁に防ぎきられてしまう。鬼道の作戦も足の速いDF相手に通用せず失敗。手も足も出ない雷門イレブンに、暗い空気が流れた。
「おいみんな、どうしたんだよ!」
 無限の壁が破れないんじゃ、と俯く一同に、円堂が激励の言葉を投げる。「必殺技ならある!」と言い切った彼に、皆が思わず顔を上げた。
「俺たちの必殺技は炎の風見鶏でもイナズマ1号でもない!俺達の本当の必殺技は…最後まで諦めない気持ちなんだ!!」
 ここまで皆を引っ張ってきたキャプテンの言葉が、雷門イレブンに深く突き刺さる。
「俺達のサッカーは絶対に諦めないこと。だったらやろうぜ、最後まで!俺達のサッカーを!!」
 円堂に促され、皆の闘志が沸き立った。掛け声こそないものの、チームの気持ちが1つに固まる。それを見て感じた鬼道は、思わず息を呑んだ。
 花音はどこか嬉しそうに、「うちのキャプテン、良いでしょう?」と静止したままの鬼道へ耳打ちする。
 残り5分と時間が迫る中、雷門イレブンの反撃が始まった。円堂も上がり、雷門全体が攻撃に徹する。何度もチャンスを作ったが、決定打を押し込むことができなかった。
 鬼道にパスが回った時、千羽山中のDF技・かごめかごめにボールが奪われそうになる。
「鬼道!」
 円堂が力強くボールを呼び寄せた。
 鬼道がボールを蹴り上げ、円堂と豪炎寺がオーバーヘッドの構えをとる。それに鬼道も加わり、稲光纏うシュート技を生み出した。強い威力を持つそのシュートは無限の壁を打ち砕いてゴールを破る。
 会場全体が波が引いたかのようにサッと静かになった。
「…やっ…た…!?」
 花音が小さく呟く。それは、待ち望んでいた1点だ。
 遅れて歓声が湧き起こった。溢れんばかりの歓声を浴びて、雷門イレブンは更に勢いづく。
「染岡、もう1点!」
 花音が染岡にアイコンタクトを送った。染岡も大きく頷いて、すぐに試合が再開される。
 1-1と並んだ状態で、残り時間はあと僅か。若干の焦りを感じてきた頃に、花音にボールが渡った。
 ゴールは遠くないが、花音のシュート・ウンディーネでは無限の壁を撃ち破るのには威力が足りないだろう。花音が近くの豪炎寺へ視線をやると、しっかりマークされ、とてもパスを出せそうにない。次に少し先に立つ染岡を見た。
「花音!」
 染岡も走り込みながら花音を呼んだ。花音が彼のドラゴンクラッシュならばとパスを出そうとした時、染岡は少し楽しげに「上がれ!」と指示を出す。花音は促されるままに駆け寄って、「だけど」と叫び返した。
 いくら試合に出ていると言っても、所詮は女子選手。スピードで誤魔化せてはいるが、パワー面で花音は男子選手に及ばない。
「大丈夫だ!お前ならいける、俺は花音を信じる!」
 力強い染岡の言葉に、それでも花音は怖気付いていた。そんな花音を見越してか、後方から円堂の声が響く。
「染岡の言う通りだ!一緒に練習してきたんだ、花音なら必ず決められる!」
 その一言は花音の心にもよく響き、彼女の背を押した。小さく「一緒に…」と口ずさみ、花音が決意の固まった表情で染岡を見る。
「染岡!手伝って!」
 言いながら染岡にパスを出した。突然のことに染岡は驚き前進する足を緩めるが、花音は「いいから!」と落ち着いた声で言う。
「一緒に、勝ち取るんだよね!」
 花音はウインクして前へ向き直った。花音がボールを持った染岡より前を駆ける。意図を察した染岡が、ドラゴントルネードのモーションに入った。
「いくぞ!」
 それを確認した花音が待ち構える。何度も見てきたけれど、合わせる位置もタイミングも自信がなかった。
「柑月!3歩右だ!」
 鬼道の誘導が轟く。すぐに言われた通り動き、高く跳び上がった。
「今だ!」
 鬼道の指示するタイミングに合わせ、飛んできたシュートにウンディーネをぶつける。勢いを上乗せしたシュートはゴールへ真っ直ぐ飛んでいった。
 青い龍が水飛沫をあげ、ボールを包む。その姿は酷く幻想的で、花音はそのシュートに目を奪われた。
「いっけえええ!」
 叫ぶ気持ちとは裏腹に、ズキズキと頭が痛む。いつか聞いた少年の声が、花音の名を呼んだ。
『帝国の奏者、ね…』
 花音の脳裏に今までの比ではない痛みが走った時、そのシュートはしっかりとゴールを割った。

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