22話 2/2

 割れんばかりの歓声の中、風丸はコートに崩れ落ちた霧隠に手を差し出した。霧隠は「やられたぜ」と少し笑って、風丸の助けを借りて立ち上がる。
「俺の負けだ。」
 霧隠の表情はすっきりしていて、本気で戦って負けた清々しさを暗に示していた。
「ナイスファイト。」
 風丸もまた、相手の健闘を称えるように労いの言葉を掛ける。
 花音は豪炎寺や染岡とハイタッチを交わし、客席に見つけた涼に手を振った後、風丸に小走りで駆け寄った。霧隠と会話を終えていた風丸に「お疲れさま」と声を掛けると、風丸は安らかに笑う。
 そんな2人、正確には花音を、霧隠が呼び止めた。
「お前、名前は?」
 突然の問いかけに花音は戸惑いながらも「柑月…花音ですけど…」と霧隠を見る。眉を顰めてこちらを見る霧隠に、その表情の心当たりが無く狼狽えた。隣に立つ風丸もどこか心配そうに成り行きを見守っている。
「柑月…?」
 言いながら、霧隠が花音を見る。頭の先から足先まで品定めするような目線を受けて、花音は居心地の悪さを感じた。たっぷり花音を観察した霧隠は、少し目を細めてまた口を開く。
「お前は…帝国の奏者か?」
 霧隠が発した聞き慣れない単語に、何故か花音の胸がバクバクと跳ねた。急に耳が遠くなるような感覚がして、動けなくなる。気づかれないように浅い息を繰り返す花音だが、それ以上何もできそうにない。
「…花音は雷門サッカー部だ。帝国の生徒じゃない。」
 霧隠の問いに答えない花音に、風丸が助け舟を出した。霧隠はチラリと風丸を見て、もう一度黙ったままの花音を見た。
「ふーん…」
 腑に落ちない様子で、霧隠は「そうか」と形だけ納得した。花音が「それって」と声を出そうとしたが、喉が掠れて上手く声が出ない。霧隠はそんな花音の意思に気づかず、踵を返して去っていった。
「花音?」
 立ち止まったままの花音に風丸が首を傾げる。花音はようやく首だけで振り返って、「なんでもない…」と笑った。

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