ふつふつと小さな、嫌な予感が私を責めた。
最近悪い夢を見ることも増えた。夢の内容は決まっていつも同じだし、その度にフィディオ・アルデナが心配してくるしで私は心身共に疲弊していた。寝ても覚めても心休まる時がない。唯一ゆっくり休息を取ることが出来るのは、パパとささやかな会話をしたときくらいだ。
デモーニオくん対鬼道くんと称しても差し支えないであろうあの試合から、私の存在意義はパパに始まりパパに消えた。今やパパが私の全てだ。いや、前々からそうだった。きっと鬼道くんは、パパの中の一部に過ぎなかったのだ。
しかし鬼道くんはパパから逃げた。だからもう鬼道くんに私は要らないし、私と鬼道くんは関係のないものになった。パパを通して同じ方向を向いていたのはつい数ヶ月前の話なのに、今では3歳の頃の記憶より遠い。
鬼道くんが風化する。
感情は曖昧なものだ、と私は初めて身に染みて思った。あんなに好きだったのに、…好きなのに、こうして簡単に誤魔化せてしまう。キリトリ線で切って捨てるように、綺麗スッキリ流れて行く。もう私にはパパしか居ない。パパだけで良い。

「おなまえはそこまでカゲヤマに感謝してるんだね。」

フィディオ・アルデナが知った風に笑う。私は彼の青い目を見つめ、色とは相反して浅い彼を見た。

「感謝なんてしてない。ただ、パパが私を娘にしたように、私もパパに精一杯を返すのよ。」

そんな当たり前の事を、何で今更口に出さねばならないのか。意図の見えない話しぶりに私は首を傾げる。
フィディオ・アルデナは困ったように笑った。

「おなまえはそんなに、1人が嫌い?」

知った口利かないで。余りに図星だっからとても言えなかった。私はぱくぱくと締まりの悪い口を動かし、否定の言葉を探して、やがて止めた。出来なかった。
代わりに肯定を1つ。

「あなたはスポットライトを浴びすぎて、1人の淋しさを忘れてしまったの。けれどパパは、絶対に私を淋しくなんてさせない。」

「おなまえには俺だって、キドウだって、デモーニオだって居るじゃないか。」

冗談を、と鼻を鳴らす。フィディオ・アルデナは良くも悪くも高潔だ。

「必要とされない淋しさも、あなたにはわからないでしょうね。」

鬼道くんを忘れるのが如何に容易なものなのかを、つい最近まで私が知らなかったように。私は少しだけ、笑った。

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