トレーを手におなまえの部屋をノックした。返事はない。
「おなまえ?入るよ?」
開けた扉の先、おなまえの部屋は明るく灯されていた。ベッドにはその姿が無く、俺は目線をずらす。と、机に寝そべり眠るおなまえを見つけた。
左腕、右腕と積み重なった上には、こちらに向いて目を伏せる顔。いつも見るより無邪気な顔だ。眠りは人を変える。
「パパ…」
薄い唇から零れた声に、俺は一瞬息を止めた。今し方知ったその事実を思い出したのだ。
おなまえは、影山の本当の娘でない。
確かに似通った顔はしていない。だが纏う雰囲気がまさに親子のそれで、今の今まで親子という関係に疑問を抱く事はなかった。きっといつまでも気づかなかっただろう。あの人、キャプテンにそれを教えて貰わなければ。
「ん…?」
おなまえが目を開ける。俺と目が合って、眉間に皺を寄せた。
「あ、起きた?」
「…フィディオ、アルデナ…」
「ご飯持ってきたよ。」
おなまえへとトレーを差し出した。おなまえがトレーを眺め、目を細める。
机から起き上がった彼女の前にトレーを置いた。ベッドの端に座り、彼女を眺める。キャプテンを信じているが、どうにも影山の娘に見えてしまう。
おなまえが俺を睨むので、困ったように笑い返した。
「君は、影山の本当の娘じゃないんだね?」
おなまえがフォークを握り二枚貝を叩く。コトン、と音を立てて逃げたそれに、狙いを定めるようにフォークを構え直す。
「私のパパはパパ以外居ない。」
言い切ったおなまえに痛々しさを感じた。おなまえはまた、俺を睨む。
彼女の右手ではフォークに刺さったアサリが割れた殻の破片を落とした。
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