私はやってきた彼女を前に振り返る。
あの日、私は少し離れた灯台の下から沈んでいく円堂くんを見つめていた。風下であった為時折声が届いたが、それもほんの二言。『俺の為にも死なないでくれよ!!』という悲痛の叫びと彼女の名を愛おしそうに呼んだその声だけだ。
私は円堂くんが乗り捨てた自転車へと目を向けた。無惨にも倒されたまま、荒いコンクリートの上で帰らぬ主人を待っていた。私の居た場所からでは余りに遠く、私はふとその様子が忠犬にも見えた。
彼女が海へと身を投げようとしているのを彼に伝えたのは、紛れもない私だ。彼を海へと連れて行ったのも私だ。私は彼が、彼女に特別な想いを抱いていた事を少なからず感じていた。

「…だから、私は。」

少女に心奪われたままになってしまわぬよう、つまり自分の利己的発想から彼を呼んだ。
何故彼女が身を投げようと考えている事に気づいたのか、なんて野暮なこと聞かないで欲しい。敢えて言うのなら、自分と同じ表情だったから、だ。
先週の金曜日。放課後に街で円堂くんを見て、しかし彼の行く方向が彼の自宅とは真逆だったが故に好奇心から彼を追った。その先で私は、彼女を見つけた。円堂くんが去ってから彼女が動いた。もう日が暮れるというのに、暗い表情でエスケープするように身を隠しながら駅へ向かったのだ。そこから乗れる電車には限りがある。停車するのは人の多い駅ばかり。唯一、この海へと降りる駅を除いては。
彼女の服装は不自然な程薄かった。いくら残暑が厳しかろうと、雨がくると連呼された秋の日に荷物も持たず着るような服でない。そして彼女の考えが手に取るように伝わり、私は迷わず円堂くんをこの海へと連れ出した。

「違うの、おなまえちゃん。円堂くんは…」

「いいから、聞いて?辛いんだよ。円堂くんの居ない世界なんて、私には辛すぎた。」

私の言葉に彼女が眉を寄せる。彼女にも分かる所が有る筈だ。私達は共に、取り返しのつかない所まで彼を愛してしまった。
海が私を呼ぶかの如く、また水面が暴れ出した。徐々に強くなる波は一週間前そのもののよう。円堂くんと同じように沈んでゆけるのなら、嬉しい。

「但し君は生きて。彼の分も、私の分も。」

彼女へ背を向け、目を閉じる。
この言葉がどれだけ彼女を苦しめるのかを知って、私はそう言った。大人気ない?許してよ。まだ、子供なんだから。

「待って、お願い聞いてよおなまえちゃんっ!止めて!!」

ただ1つ、私が決めた事は、私はここに彼への想いを置いていく…それだけだ。


その時、曼珠沙華が花弁を散らせた

TOP


×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -