チェーンと歯車が噛み合い、そして離れていくという一連の音を耳にしながらペダルを漕ぐ。サンダルで出てきてしまったばっかりに少々漕ぎづらい。しかしこのサンダルが良かった。だから多少の苦労は仕方ない。
夜風が酷く冷たい。道は至る所に取り付けられた街頭のお陰で予想していたより明るかった。
漕ぎ慣れた道を行く。私は海も好きだ。潮風といい、潮騒といい、風情がある。聴いていると幸せになれる気がする。特に今向かっている円堂くんが沈んだあの海は、行く道を覚える程好きだった。今も好きだ。
あの海までは遠い。きっと海岸にこの自転車が着く頃には、この夜が明け涼しげな朝がやってくるのだろう。
溢れんばかりの朝日を浴びて、また曼珠沙華が神々しく輝き出す。朝日が昇ったら、円堂くんが沈んだ土曜日の始まりだ。
待ってて、とは言わないよ。
円堂くんは一生懸命だった。私は半歩引いていた。大人はいつもいい加減だ。そんな私を冷静だと評価する。違う、そんなんじゃない。ただ私は円堂くんと違って怖かっただけだ。一歩踏み出すそれが怖くて、怖くて怖くて何も出来なかったんだ。
本当は羨ましかった。円堂くんのように笑いたかった。だから、適わない彼に恋をした。それが間違いだったかと問われれば自信をもって答えよう。絶対に間違いなんかではなかった。…そして、今も。
けれど願うなら、そんな過去の私に一歩踏み出す勇気を与えて欲しい。せめて円堂くんに伝えたかった。この声が届く内に「好きだ」と。
もう全て遅い。全てが遅すぎた。故に私は海へ向かう。
今頃両親は眠りこけているのだろう。玄関横の靴箱からサンダルが1つ消えている事にも気づかずに。
空が僅かに白んできた。出発してから数時間が経過していた。
ゆっくりと夜が明ける。


終末へと近づく夜明け

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