荷物を下ろした。窓の外には延々と続く曇り空。窓際に立つ曼珠沙華さえうなだれて見えてしまう。それでも、曼珠沙華は今までより美しい。前年より、その前より、昨日より、いつもより。今日の曼珠沙華は美しい。こんなに綺麗な紅は初めてだ。
円堂くんに見せたかった。
例え彼が居た所で会話が出来たかどうかもわからない。それでもこんな曼珠沙華が、彼が居なくなった今咲くなんてと苦笑しか零れない。
蜩の声が日に日に消えていく。こんなに身近に幾千も消えていく命があるのに、私達はそれに慣れてしまった。哀しい。
私は決めた。もう、円堂くんは居ない。分かってる。分かっている。
だからせめて、せめて。エゴイズムの探求。私が納得すればそれでいい。円堂くんはもうどこにも居ないのだから。
ドアをまた開けた。温い、まだ過ぎ去っていない夏を主張する風が吹き付ける。
その風にすら円堂くんの色を探している私が居て、目を閉じれば胸元までせり上がってくる。夢でも幻でも良い。今円堂くんに会いたい。少しだけ恐怖しているから。
彼が勇気や希望という、太陽に近い光を与えるのなら。どうして海になんて沈んでしまったのか。また、彼は昇れるのか。
朝がまた夜に代わる。がらんどうな空に星が灯り、円堂くんが輝く時がくるまで見守っている、のに。
私は決めた。一歩部屋を出る。あれから黙りを決め込む曼珠沙華を振り返る。やはりいつもよりずっとずっと綺麗だ。その優美さは紙一重で妖美にも受け取れるのだけど、今は私の背を押してくれているように感じられる。ありがとう、大好きだよ。
曼珠沙華は声を返してくれない。一言でいい。聞きたい。けれどそれではずるずると甘えてしまうから。

「バイバイ、」

ドアを閉め、階段を下りる。今日は両親の帰りが遅い為、家には私と曼珠沙華きりだ。一階の廊下に備え付けられた電話の受話器をあげる。メモを広げ、彼女へと電話を掛けた…。


動き出しすのは金曜日

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