少し期待していたのかもしれない。夕日に焼ける校舎の上、屋上にて喉を震わせる。
それはあの人と同じような声で、私はあの人の偽物。
「あなたなら、気づいてくれる気がして」
なめらかに音階の間を踊る旋律。心とは裏腹に優しく甘く。
「手を伸ばすわ。どこまでも、光へ」
でもそれはあの人がくれた歌。
あの人が教えた歌い方。
「だから、きっと…」
錆びた金属同士がこすれる音。背後に感じる気配に、私は振り向かずにただ、止まる。
「…おなまえ…」
待っていた。
だけど来て欲しくなかった。
踏ん切りがつかないから。
私はこうして居られないのに、心地よさを知ってしまった。
「私には、近づかないで。」
嫌だ。認めて欲しい。
でも願ってはいけない。人形なのだから。
あの人が私を見る目は酷く冷たい。まるでくずかごからこぼれた埃を見るように。
‘あなたなんて見たくない’。口で言われたこともあった。
父なんてない。彼女は結局離婚したのだから。
忌々しい男の血が流れる自分そっくりの人形。そこに愛はなくて、あるのは絶対零度の空気のみ。
「俺はおなまえを愛してる」
その言葉に揺らめく瞳は、紛れもなくあの男の瞳だった。
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