やっぱり私は円堂くんが好きだ。誰がどう「言おう」と、誰がどう「想おう」と。とにかく、彼が好きなのだ。
それでももう円堂くんは居ない。分かってる。分かっている、つもりだ。でも、だからこそ、苦しい。
誰があんな結末を考えただろう?まさか彼が沈むだなんて。あの荒波に呑まれるのは、本当は…。
今更どう考えたって変わらないのは重々承知。それでも考えては罪悪感を植え付けられる。私が彼女を苦しめるのは、単にその罪悪感をがむしゃらに他者に押しつけているだけ。分かってる。
私はただ、彼の為になりたかった。彼が苦しむのは見たくなかった。そしてそれ故に自分が苦しかった。だから死んでしまえ、と思った。心の鬼だ。鬼がそう、語りかけた。
曼珠沙華は今日もこんなにも美しい。段々と花開く姿は曼珠沙華を嫌う私の両親さえ魅了する。そしてその美しさが、怖ろしい。
地獄の業火なんてものを目にした事はないのだけれど、きっと曼珠沙華の前ではそれすら色褪せてしまう。いっそ私の心に巣くうこの鬼を、この曼珠沙華に灯る赤々とした炎で焼き尽くしてはくれないか。そうすれば、次に生まれた時にはあの少女とも心の底から笑い合える気がするから。

『都合の良い考えだ』

分かってるよ。曼珠沙華は呆れ顔。
鬼、だなんて不確定で超自然的なものに罪を着せる、その行動すら罪深い。結局私は罪で薄汚れた考えに縛り付けられ、沈んでいけばいい。海よりも深い、何かの中に。
曼珠沙華のこの艶やかな花弁を見つめていられるのなら構わない。そう、思いたい。
けれども人とは自分勝手だ。私も一人間なのだから、自分勝手、エゴを貫いて生きていく。エゴイストにもなってやる。
私は。私は円堂くんが好きだ。誰がどう「言おう」と、誰がどう「想おう」と。とにかく、彼が好きなのだ。
それでももう円堂くんは居ない。分かってる。だからもう、良いんじゃないか?
私の世界の全ては円堂くんの色で塗りつぶされていたのに、彼が沈んでから世界は独自の色彩を重ねた。もうこの世界は円堂くんの居た世界とは遠い。遠くしたのは紛れもない私なのに。
良いんじゃないか?

『良いと思う』

本当に?
初めて曼珠沙華が私を肯定した。けれどそれきり、どんなに声をかけても言葉を返してはくれなくなった。私はこの曼珠沙華と、円堂くんの居た世界を愛そう。

「良いよね。だってもう、全てなくなっていく。」

もう少しで日が暮れる。赤蜻蛉が網戸を前に急な方向転換をした。私は明日を待って立ち上がる。

「愛してるよ、円堂くん」

君が好きだ。君がなんて言おうと、彼女に怨まれようと。私は彼を愛す。曼珠沙華と共に。


想いを連ねた言葉の先に

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